苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

読書

辺見じゅん『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』

先の敗戦後、ソ連軍は1945年2月米英とのヤルタ協定に基づき、日ソ不可侵条約を一方的に破棄して、対日参戦して満州に侵攻した。ソ連軍によってシベリヤに抑留された人々は57万5千人。氷点下30度を下る極寒の中での強制労働によって失われた生命は、厚生労働…

新改訳2017

ついに新改訳2017を手に入れて読み始めました。遅いですよね。聖書を食べるように読む下川友也先生が、第一刷に誤字・脱字は見当たらないなあとおっしゃったからです。 紙がクリーム色で質もよくなりました。 旧約聖書の「つぶやく」が「不平を言う」と…

保坂正康『崩御と即位』

お正月に古本屋でふと見つけた保坂正康『崩御と即位ー天皇の家族史』という本は読み応えのあるものでした。孝明、明治、大正、昭和そして平成の天皇の崩御と即位の時期にフォーカスを絞って、ていねいに史料を読み解きながら「時代が天皇をつくり、結果的に…

出村和彦『アウグスティヌス』岩波新書

大学院時代の先輩の出村さんが、岩波新書からアウグスティヌスの生涯をていねいに平明な文体で描く本を出されました。アウグスティヌスというのは、古代教父(教会の父の意味)として代表的な人物です。『告白』で有名で、私も大学時代にわからないながらも…

吉村昭『関東大震災』

吉村昭『関東大震災』を読み終わりました。二人の地震学者の地震予知をめぐる確執、22万人余の死者と、その莫大な死体の処置の混乱。人心の動揺、朝鮮人虐殺、甘粕事件と社会主義者弾圧、悪徳商人による物資買い占めと暴動、糞尿の処理ができないことによる…

内田樹『寝ながら学べる構造主義』

構造主義に関する入門書。だが、入門書こそ本質的な内容が書かれているものなのだという意気込みで書かれている。おもしろい。 構造主義とは、要するに、「相撲は番付で取る」ということだと納得。 まあ、「ナントカ主義」というのはみんな極論-思想的偶像…

谷川直子『世界一ありふれた答え』

高校の一年後輩、大学時代の友人の小説です。ウツとの闘いというつらいことがらを描きながら、不思議に清々しい文体と作品。 誠実に現実に向き合うことの困難さ、しかし、誠実に現実に向き合うときに起こってくる癒し。私は、創世記3章のいちじくの葉のこと…

『真珠湾攻撃総隊長の回想ー淵田美津雄自叙伝』

教会の、もし生きていれば私の父ほどの年齢の方が貸してくださった本です。「トラトラトラ」の淵田美津雄氏が、戦後、クリスチャンとなって米国で活発に伝道旅行をしたということを私は初めて知りました。 第一部 その一日のために 第二部 トラトラトラ 第三…

藤本満『聖書信仰』を読み終えて・・・ポストモダンの効能と使用上の注意

本書は「聖書信仰」について、<宗教改革、17世紀プロテスタント正統主義、経験主義、合理主義とプリンストン神学、ファンダメンタリズム、戦前日本における聖書信仰、アメリカの新福音主義、第二世代のエリクソンとピノック、シカゴ宣言、聖書信仰を『生き…

「物語神学」の「物語」という用語の問題性

藤本満師『聖書信仰』続読。 「ジェラール・ジュウェットは、ストーリーとナラティヴを区別した。ストーリーは、実際に起こっている出来事の歴史的内容そのものであり、ナラティヴはその出来事を物語る文学的な言説である、と。歴史的な出来事としてのストー…

聖書解釈・・・普遍(類似)と個物(区別)との両方に注目すること

遅まきながら藤本満先生の『聖書信仰』を読んでいます。おもしろい本です。「新しいパラダイム」という章で、近代(モダン)の<理性と言語には文化や時代を超えた普遍性がある>という前提が壊れて、<理性も言語もある共同体のなかに限定される個別のもの…

中澤秀一『グローブから介護へ』(ヨベル出版)

好著です。家内は、リハビリでお世話になった先生ふたりにプレゼントするといって、アマゾンに2冊注文しました。 前半は、憧れの巨人軍選手までの道のりと挫折、その後職を転々としてさまよった7年間、そして老人ホームで天職と奥さんとキリストとの出会い…

聖書の権威の射程

ああ、まさにそうだと思ったことば。 「聖書も、徹頭徹尾宗教的であり、救済を目的とした神の言葉である。しかし、それゆえにこそ、聖書は、まさに家庭や社会、学問や芸術のための言葉でもあるのである。」 「聖書は学問や芸術にとっても道の光であり、足の…

石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』(講談社現代新書)

(1)「ヒトラーが首相になったのは、選挙に勝ったからではない。ヒンデンブルク大統領が任命したからだ。」 1932年7月第一党になったとはいえ、すでに低落傾向にあったナチ党であったが、ヒンデンブルク大統領は、あえてヒトラーを首相に選んだ。ヒンデン…

ナチズムと神学者の件

ヒトラーの時代のことを書いた本をいくつか読んでみて、一番目に深い印象が残っているのは、20歳ころに読んだフランクル『夜と霧』です。人間はここまで悪魔になってしまえるのかという恐ろしい現実と、収容所という限界状況において生き残った人々はかなら…

「大衆」・・・・・石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』から

本書に「わが闘争」の「宣伝」についての考えが引用されていました。「大衆の時代」、政府のマスメディア支配の効果と危険性。 「宣伝は手段であり、目的の観点から評価されなければならない。宣伝の形式は、それが使える目的に向けて効果的に適合するもので…

守部喜雅『天を想う生涯―キリシタン大名 黒田官兵衛と高山右近』

NHKで「軍師 黒田官兵衛」が放映されていたころに出版された本。しばらく積んでおいて今回読んでみた。小さいけれども、読み応えのある本だった。秀吉が、あるいは家康が、キリスト教に対してあれほどの敵意を向けなかったならば、日本の歴史は大きく違って…

『「氷点」解凍』

先日、数名の主にある兄弟姉妹たちと話をしていて、三浦綾子さんの本が話題に上った。『塩狩峠』は高校三年生の夏に映画で見たのが最初で、その後、大学生になってから小説で読んだ。その後、『道ありき』『氷点』ほか、三浦さんの作品はほとんど読んでしま…

ベンゲルのグノモン邦訳が公開されました

「ベンゲルのグノモンは、泉のように深い。」と何かの書物で読んだことがあります。ベンゲルというのはドイツ敬虔主義運動のフランケの後継者で、グノモンというのは有名な聖書註解です。私はずっと英訳の二巻本をもちいてきました。私にはまだその「泉のよ…

N.T.ライト『クリスチャンであるとは』  読後感三点

一ヶ月ほどまえ、N.T.ライト『クリスチャンであること』を通読しました。思いついたことを忘れないうちにメモしておきます。 1.なるほど! ライトの言うことで、「なるほど」と心に残ったのは、天と地というものは、プラトンがいうようにかけ離れた二元…

J.I.パッカーの贖罪論・義認論・契約神学

カナダ在住の友人のN君が訳した、J.I.パッカー先生の贖罪論・義認論とあわせて出版予定の契約神学入門の翻訳草稿を見終わりました。パッカー先生の英文は、今風の短い文をつないですらすら読める場所と、ぎっしり固めて書いてあってややこしいところの落差が…

宮村武夫『ヨハネに見る手紙牧会ーその深さ、広さ、豊かさ』

宮村武夫先生の『ヨハネに見る手紙牧会ーその深さ、広さ、豊かさ』が届きました。まずは吉枝先生と遠藤勝信先生の前書きとあとがきを読みました。このシリーズの前書きとあとがきには、神がどんなご摂理をもって、それぞれ出会いを用意されたかということが…

武田知弘『大日本帝国の真実』

バランスの取れた内容で、現代への警鐘ともなっている平明な文体の良書だと思います。250ページほど 中古で130円ほど。 第一章 明治維新 第二章 大日本帝国が目指した国家像 第三章 日露戦争 第四章 殖産興業 第五章 戦争依存症国家と軍部の暴走 第六章 なぜ…

泉三郎『岩倉使節団 誇り高き男たちの物語』

泉三郎『岩倉使節団 誇り高き男たちの物語』をようやく読了しました。廃藩置県からわずか4ヵ月後、明治4年11月12日から明治6年9月13日まで、岩倉具視、木戸孝允、大久保利通、伊藤博文ら維新の立役者らをはじめ30名を超える使節団が、米英仏ベル…

「美しい国、日本」は妄想

首相は、「現在の日本は子どもたちの心がすさんで少年犯罪が増えてどうしようもないが、かつての戦前の少年少女は愛国心に満ちていて日本は美しい国であった」と思いこんで、宣伝している。また、マスコミの流すニュースを見ていると、やはり、現代は少年犯…

昭和天皇の思惑・・・9条2項と米軍基地

矢部宏治『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』のパート4には、憲法9条制定に関するマッカーサー側の意図について、9条と、国連憲章(特に敵国条項)およびその原案にあたるダンバートン・オークス提案と沖縄基地化の関係が記されている。古…

矢部宏治『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』

評判の矢部宏治『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』を手に入れました。結論を言えば、日本国憲法の上に、日米地位協定・日米安保条約・日米原子力協定ほか日米秘密協定が位置しているからだということです。原発・安全保障に関しては、法…

『静かなヒーローたち』

『静かなヒーローたち』という本を在米の友人から送っていただいて読みました。副題に「一世紀にもわたって、日本と日系人をたすけてくれたアメリカ人クエーカーたちの愛の記録」とあります。 先の大戦のとき、米国では日系人たちは敵性人種であるとして、強…

読了 渡辺京二『逝きし世の面影』

渡辺京二『逝きし世の面影』、合間合間に読んで、ようやく読み終わりました。600ページ近くもあるので、手間がかかりました。とはいえ、内容は幕末・明治初期にこの国を訪れた西洋人たちが書き残した興味深い文章の引用に満ちていて飽きさせません。・・・で…

貧乏人は存在するけれど、貧困なるものは存在しなかった・・・

『柿崎は小さくて貧寒な漁村であるが、住民の身なりはさっぱりしていて、態度は丁寧である。世界のあらゆる国で貧乏にいつも付き物になっている不潔さというものが、少しも見られない。彼らの家屋は必要なだけの清潔さを保っている(ハリス,1856)』 『もう…