苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

ナチズムと神学者の件

ヒトラーの時代のことを書いた本をいくつか読んでみて、一番目に深い印象が残っているのは、20歳ころに読んだフランクル『夜と霧』です。人間はここまで悪魔になってしまえるのかという恐ろしい現実と、収容所という限界状況において生き残った人々はかならずしも肉体壮健な人々でなく、内的世界に豊かなもの、愛を持つ人々であったということを思い出します。フランクルは心理学者として、この経験を静かに正確に記していました。
 二番目に印象に残るというか、慄然とさせられたのは、エリクセン第三帝国と宗教』という本です。これを読んだのは3年ほど前です。本書では、ゲルハルト・キッテル、パウル・アルトハウス、エマニュエル・ヒルシュという、「超」がつく一流の神学者たちが、あの時代ヒトラーを礼賛したことが記されています。とくに、キッテルとヒルシュは「ユダヤ人虐殺の神学的正当化」という恐ろしいことをしでかしたのです。議論の詳細は忘れてしまったのですが、民族主義というものが彼らのうちに生来培われていたことが、ヒトラーの掲げた民族主義という擬似宗教に同調してしまったというふうなことであったと思います。また近代化・社会民主党政権の中で崩れてきている保守的伝統的なドイツ的価値の回復を、彼らはナチスに期待したらしい、ということ。
 もう一つ付け加えて言えば、ルター派神学の国家に対する構造的なもろさということがあるといわねばならないと思います。