苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

佐野眞一『あんぽん  孫正義伝』

 ソフトバンク孫正義さんの伝記はいくつも書かれているけれど、今まで読んだことがなかった。いわゆる立志伝ふうの成功談にかんする関心は、小学生のころエジソンとか義経とか野口英世とかですでに尽きてしまった。私の心に残った伝記は小学1年生で読んだ『良寛さん』だけだったので、食指が働かなかった。
 だが、腹巻の「今から一世紀前。韓国大邱で食い詰め、命からがら難破船で対馬海峡を渡った一族は、筑豊炭田の”地の底”から始まる日本のエネルギー産業盛衰の激流に呑みこまれ、豚の糞要と密造酒のにおいが充満する佐賀・鳥栖駅前の挑戦部落に、一人の異端児を産み落とした。孫家三代海峡物語、ここに完結」という文章にひきつけられた。本書は孫さんを美化しているわではなく、そのいかがわしさも率直にそして深く描いている。
 昨年、311地震のあと、孫さんが個人資産から100億円の震災義援金を出し、十億円で自然エネルギー財団を設立したというニュースを耳にした。そのあと、youtubeソフトバンク何周年記念かの集会で孫さんがご自分の来歴を話すのを見た。在日の人々がどのような道をたどってきたのかということが率直に話された。また、愛情の塊のようなおばあちゃんが亡くなった話のところでは、声涙ともにくだるありさまだった。
 孫さんが義援金を出したこと、原発ではこの国は早晩国土を失ってしまうという危機感から、自然エネルギー財団をつくったことについて、いろいろとかんぐる都知事や評論家たちがいるが、その勘繰りの内容によって、その人は自らがどの程度の器であるかを暴露しているだけのことである。
 まあ、孫さんはIT屋さんで農業のことを知らないので、休耕田にメガソーラーを置けばよいといったのは、まちがいだが。(そんなことをしたら、田んぼが死んでしまうし、日蔭がちだから休耕田にされている所にソーラーパネルを置いてもあまり意味がない。)心配なのは、エネルギーには既得権益の絡んだ手段を選ばない暗闇の人々がいるので、孫さんのいのちは大丈夫かということである。
 本書は、孫さんを偉大な成功者とか、聖人とかいう風に描いているわけではない。強烈な個性をもった父母・祖父母と、あの時代環境のなか、地の底から這い上がってきた孫正義という人をありのままに描こうとしている。ひさびさに電車でも寝床でも読むのをやめられない本だった。・・・そうそう、ご本人よりも、孫さんのおやじさんのほうが、むちゃくちゃだけれど、なんとも魅力的だった。
 一点、読んでいてこまったのは、「孫」と出てくるたびに、つい何度も「まご」と読んでしまってわけがわからんようになったことだった。(小学館