苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

牧田吉和先生による書評『新・神を愛するための神学講座』

書評:水草修治著

『新・神を愛するための神学講座』(地引網出版 2022年1月)

 

本書は、夕礼拝の「教理説教」に発し、その後の信州小海における開拓伝道と教会形成、さらには苫小牧での伝道牧会の中で育まれ、30年を要して結実した書である。「神を愛するための神学講座」というタイトルには本書の思いが集約されている。伝道の現場の中で粘り強く考え抜かれた著者の神学的姿勢に心からの敬意を表したい。本書は神学の原点を指し示す書でもある。

本書は、聖書に密着しつつ、難しい内容をわかりやすく、信徒の方々にも理解できるように叙述されている。牧会的思いが溢れている。しかし、内容的には軽い書物ではない。「組織神学概論」としての本格的内容を持つ。著者は哲学を専攻され、教会教父にも通じ、「弁証学」にも強い関心がある。本書にもその特色は色濃く反映されており、内容的にはかなり難しい部分を含む。牧師の指導の下で読まれると理解の助けになるであろう。

著者は積極的に持論を展開する。特に注目すべきことは教父に学びつつ「『神のかたち』は御子である」という主張を掲げることである(214頁以下、304頁以下)。その際、「御子」は神と人との創造の仲保者と理解される。しかし、この主張の意図は理解できるが(155頁)、議論されるべき問題である。「仲保」の概念は相互の対立を前提としている。創造論的意味において神と被造物の間に対立はなく、「仲保」の概念は成立しない。歴史的には議論のある問題であるが、個人的には誤解を避ける意味でも慎重でありたいと思う。

著者の神学的背景は改革・長老主義の歴史的正統主義の伝統である。創造論的視野が重んじられ、救済理解も包括的である。しかし、敬虔主義の陥る弱点も指摘されているが、同時に評価もされている。福音主義諸教会全体のことを考えて、バランスがとられている。この意味では、福音主義諸教会が安心して読める書、読むに値する内容豊かな書である。

                       (改革派宿毛教会 牧田吉和)

 クリスチャン新聞に載せられた牧田吉和先生による書評です。牧田先生は長く神戸改革派神学校で校長を務められ、現在は高知県宿毛で伝道牧会をしていらっしゃいます。一昨年、北海道聖書学院にも教えに来てくださいました。このたび『改革派教義学』のキリスト論の巻を書き上げられました。

 上の書評で触れてくださった「『神のかたち』は御子である」という点は、先生の指摘なさるとおり、私が是非多くの人に知ってほしいと願っていることです。この本を書こうと思った主な動機でもあります。すなわち、エイレナイオス、オリゲネス、アタナシオスたち初期ギリシャ教父たちは、創世記1章26,27節に出てくる人間が創造されるにあたって、そのモデルであったのは三位一体の第二位格である御子であるという理解をしていました。それは使徒パウロ創造論の文脈の中で「御子は見えない神のかたちであり、造られたすべてのものより先に生まれた方です。」(コロサイ1:15)と教えているからです。パウロが創造を論じるにあたって念頭に置くのは、なんといっても創世記1,2章です。その中で「神のかたち(エイコーン)」ということばが用いられているのは、いうまでもなく創世記1章26,27節ですから。

 父なる神は、私たち被造物が見ることも近づくこともできない超越者であり、御子は被造物に親しく関わるという役割を担うお方です。父は御子のうちに子とするものたちを選び、父のご計画にしたがって御子は万物を創造されました。また知りえない父を私たちに親しく知らせてくださったのは御子です。救済において、神と人との仲介者となられたのはいうまでもなく御子です。

 西方教会の神学の伝統では牧田先生のおっしゃるとおり「仲介」という概念は、救済論的な文脈でもちいられて来たので、「『仲保』の概念は相互の対立を前提としている。」とおっしゃるのでしょう。しかし、仲保・仲介(mediate)という概念は、必ずしも対立を前提としません。WordNetによればmediatehaの語義について「2つの異なるものの中間的であるか中央の位置を占めるか、またはそれらの間の、結びつけるための関係あるいは段階を形成する。」とありますし、研究社新英和でも3番目の語義として「(贈り物・情報などを)取り次ぐ」というものを挙げられています。キリストは神の第二位格であられますが、父から賜った職務として、無限の神と有限の人との間に立って両者を結ぶ役割を果たすという意味で、御子の仲介を単に救済論的文脈だけでなく、選び・創造・啓示そして審判まですべて無限の神が有限な被造物に関わる場面で、常に両者の間に立つ働きを、仲介なさるのです。

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