「虹が雲の中にあるとき、わたしはそれを見て、神とすべての生き物、地上のすべて肉なるものとの間の永遠の契約を思い出そう。」(創世記9章16節)
創世記9章1―17節では、歴史の再出発にあたって、神はノアと息子たちを祝福して、三つのことを定めた。
第一に食物規定の変更として肉食許可を与え、
第二に殺人罪に死刑を定め、
第三に被造物世界の保持の契約を与えた。
第一のことは、大洪水による被造物世界の激変ゆえに、植物だけでは栄養が不足するようになったからであろう。
第二の規定は、人が神のかたちに造られたことが、人間の尊厳の根拠として挙げられている点で重要である。また、制度としての死刑は具体的にはどのように執行されえるのかは書かれていないが、剣の権能をもつ権力機構の出現を暗示していると思われる。
第三の保持の契約は、今後の被造物世界の歴史が存続するための前提となる。虹が、その「契約のしるし」である。印象的なのはこの「契約のしるし」を見て、契約を思い出すのが神であるという点である。契約のしるしといえば、アブラハム契約なら割礼、新しい契約ならパンとぶどう酒であり、私たちは聖餐式において、これらを見て、神の契約を思い出す。だが、ノアの契約に関して、神が虹を見て契約を思い出してくださるというのが、面白い。もちろん、虹を見て私たちもその契約を思い出すのだが。この「思い出す」は、やはり、昨日の「心に留める」のザーカールということば。全知の神が忘却することはなかろうに、なぜ思い出すなのか、といった哲学的議論は横に置いて、神が契約を思い出し心に留めてくださるところから、新しい救いの歴史の展開が始まることに注目したい。