高校古文で勉強する「係り結び」という強調語法があります。係助詞が、文末の結びに影響を及ぼして、文意を強調します。「は」「も」の結びは終止形でこれも係り結びではありますが、たいていの場合、「ぞ」「なむ(なん)」「や」「か」の結びが連体形になるばあいと、「こそ」の結びが已然形になるばあいが、狭義で係り結びと呼ばれます。また、係り結びに準じる語法として、「いかで」「いかに」などの疑問のことばがあると、文末は連体形結びとなります。
係り結びは文意を強調する
「ぞ」「なむ」「や」「か」→連体形結び
これに準じる「いかに」「いかで」など→連体形結び
「こそ」→已然形結び
賛美歌の具体例を挙げてみましょう。
新聖歌1(聖歌477)「イエスこそ すべての力と知恵 富と尊きを 受くべきなれ」
ここでは「こそ」が文末に係って、「なり」が已然形「なれ」となっています。
新聖歌3(讃美歌3)「塵ひじに生りし身は 主に頼る他ぞなき」
「ぞ」が文末に係って、「なし」が「なき」という連体形となっています。
新聖歌9(讃美歌9)「いかで忘るべき」
「いかで」が文末にかかって「べし」が「べき」という連体形になっています。
新聖歌15(讃美歌15)「われらの神こそ真の神なれ」
「こそ」が文末にかかって「なり」が「なれ」という已然形となっています。
こうした係り結びのなかで、賛美歌理解の上で現代人がとくに注意すべきは、「こそ」の結びが已然形となるケースでしょう。というのは、現代人の語感からすると、已然形のかたちが命令と誤解されがちだからです。上記の例でいえば一番下の新聖歌1番と15番です。
讃美歌3に「あめつちの御神をば ほめまつれ人の子よ われらが主の御殿こそ 照り輝け いや栄えて」とありますが、最初の「ほめまつれ」は命令形ですが、「照り輝け」は已然形です。というのは、その前に「こそ」があるからです。したがって、「天地の神をほめたたえなさい人間たちよ。私たちの主の御殿(礼拝堂)は、実にすばらしく照り輝くよ 栄光にみちて」という意味になります。主の御殿すなわち礼拝堂に「照り輝け!」と命じているのではなく、単に強調しているのです。
というわけで、賛美歌を誤解しないで歌うと言う実際的な目的からいうと、「こそ」が出てきたら、あとに命令に見えるような語形が出てきたら、それは命令ではなく強調なんだと心得ておくことです。
庭のクロッカス開花第一号