小室直樹氏が9月4日逝去されたそうである。世に天才というものがいるならば、この人こそ天才であった。氏の著書を最初に知ったのは、神学校1年生のときだったから、1982年である。共産圏伝道を志していたKさんという先輩が、『ソビエト帝国の崩壊』という本を貸してくださった。一読して、「へー、なんという知識と分析力。すごい人だなあ」とは思ったが、まさか、ほんとうにソ連が、小室氏の分析したシナリオどおり1991年に崩壊するなどとは思わなかった。
その60冊という著書のうちの5冊ほどしか読んだことがないけれど、気になる名前であった。もともと氏は軍国少年であり、米国に敗れた悔しさをばねに日本を立ち直らせることを意図してその学問的歩みをスタートしたという人であるから、一般にいう右寄りの学者であるので、その主張に首肯できないこともままあったのだが、スタンダードに最高水準の諸学を徹底的に深く広く修めた上で、しかも、自分の頭できちんと考える人であり、そして、あくまでも在野の人であった点で、異色の人だった。おそらく死後数十年を経て、ようやく評価されるような人なのだろう。
もう二十年ほど前のことだが、たまたま西武池袋線大泉学園の駅前の文房具屋の前で、青いジャージの上下を着てサンダルをつっかけた赤ら顔のおっさんに会った。なんと小室さんだった。至近距離1メートル以内だった。あのあたりの四畳半のアパートに住んでいらしたらしい。声をかけたら叱られそうだったので、チョット会釈しただけで声をかけずじまいだったが。サインもらっとけばよかった(?)。