『根の深い木』というドラマをgyaoで見て、おもしろいなあ、考えさせられるなあと思っている。もちろん多くの部分がフィクションであるのは当たり前だけれども。
ドラマでは朝鮮王朝第三代王太宗は、武断政治を行う絶対君主制であった。これに激しく反発して、内政はどこまでもことばで説得して行うことを目指したのが息子イド(後の世宗)。彼は、絶対君主制を批判する秘密結社秘本のチョンドジョン、その息子チョンギチュンという青年と若い日に共感するところがあった。しかし、秘本は太宗によって根絶やしにされた(はずだった)。
太宗死後、世宗は儒学者たちをブレーンとして、大臣たちと議論させつつ理に適う政治を行なった。だが、世宗には儒学者たちにも知らせない、さらなる理想があった。それは、当時士大夫階級が独占していた文字(漢字)とは別に、朝鮮の民衆たちでも読める表音文字を定めることだった。訓民正音、後にハングルと呼ばれる文字である。
ところが二十数年の時をへて秘本の世継ぎチョンドジョンが秘密結社を全国に組織して士大夫階級を糾合して、王を象徴とし士大夫階級が実権を握る政治を実現しようということだった。
絶対王政を批判する点では、太宗とチョンドジョンは共通している。しかし、目指している理想社会が異なっている。チョンドジョンの理想は貴族政治である。てっぺんに統合の象徴としての王、その下に実権を握る士大夫階級、その下に無知蒙昧な民衆という社会である。中世的社会体制である。
太宗の目は民衆に向けられている。民衆に文字を与えることによって、自ら考え行動することができるようにと考えている。やがて民衆の中からも、科挙に合格する者たちも出てくるだろう。中央政府と民衆が直結した近代国民国家のかたちということになる。そうなると、文字を独占して科挙を受けて特権にあずかってきた士大夫階級は既得権益を脅かされることになるので、士大夫階級は王の計画する訓民正音(ハングル)制定に反対した。