苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

帝国による属州統治のノウハウ

 リチャード・ボウカム『イエス入門』に次の一節があった。

「帝国はなによりもローマ人と彼らを支える属州のエリートたちの繁栄のために存在していたという事実を。ローマはたいてい地方のエリート支配者たちと共同で属州を統治した。したがって、ローマがユダヤ地方で大祭司とその議会の協力を求めたのは自然ななりゆきだった。」(p39)


 ヘロデ大王のもとを東方の博士が訪れ、王がおじまどって、大祭司や学者たちにユダヤ人の王はどこに生まれるのかと問うたとき、彼らがやすやすと「それはベツレヘムです」と答えたのはなぜか。大祭司や学者連はローマ帝国の属州という体制下で権益をむさぼっている高級官僚であったからである。彼らにとってはメシヤが到来して、ローマ帝国の支配体制が崩壊することは不都合だった。
 大祭司カヤパも次のように発言して、キリストを亡き者にしようと提言している。

 彼らのうちのひとりで、その年の大祭司であったカヤパが、彼らに言った、「あなたがたは、何もわかっていないし、 ひとりの人が人民に代って死んで、全国民が滅びないようになるのがわたしたちにとって得だということを、考えてもいない」。 (ルカ11:49,50)

 ローマ帝国が広大な版図を支配したノウハウは、ずっと後年の英帝国による世界支配においても、米帝国においても用いられている基本的な手法である。帝国は属州に傀儡政権を立て、支配階級に甘い汁を吸わせて取り込むことによって、属州を支配させるものなのである。日本の戦後の歩みもまた同じである。郵政民営化原発再稼働・TPP・集団的自衛権行使(自衛隊の米軍傭兵化)といった政府の政策は、日本国民のためでなく、帝国のために進められている。大戦後今日に至るまでの間に、米国からの自立を図ろうとした有力な政治家たちが、失脚させられてきたことも、こうした背景から理解されるであろう。