国民はTPPにかんして全国民に共通する最重要問題である健康といのちの問題から、目をそらさせられている。TPP参加が国民皆保険制度が崩壊させる可能性が高いのである。日本医師会が、今般の安倍総理のTPP交渉参加について意見書を発表した。
日本医師会 TPP交渉参加判断に対する意見
2013年 2 月 27日
社団法人 日本医師会
会長 横倉 義武
2013 年 2 月 22 日、安倍晋三内閣総理大臣は、米国でオバマ大統領と会談を行い、日米共同声明を発表しました。
両首脳の交渉の結果、日米共同声明では「二国間貿易上のセンシティビティが存在することを認識しつつ、両政府は、最終的な結果は交渉の中で決まっていくものであることから、TPP 交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する。」とされております。
日本医師会は、将来にわたって国民皆保険を堅持することを強く求めると同時に、ISD 条項により日本の公的医療保険制度が参入障壁であるとして外国から提訴されることに懸念を示して参りました。そして、訪米直前の安倍首相に対し、TPP 交渉参加によって国民皆保険が揺るがされないことを重ねてお願いいたしました。
「日米首脳会談(概要)」(外務省)によると、「TPP交渉に関しては、先の衆院選では、聖域なき関税撤廃を前提にする限り、TPP 交渉参加に反対するという公約を掲げ、また、自民党はそれ以外にも 5 つの判断基準を示した」とあります。その 5 つの判断基準である「J‐ファイル 2012 自民党総合政策集」の中には、「国民皆保険制度を守る」「国の主権を損なうような ISD 条項は合意しない」の 2 つが含まれています。また、安倍首相も「国民皆保険制度を守る」と仰っており、日本医師会も、誰もがいつでも、安心して適切な医療を受けることができる素晴らしい医療制度である「国民皆保険」を守るという方向性はまったく同じであります。
しかし、日本医師会は TPP交渉参加によって、公的医療保険制度が揺るがされることを懸念しており、①知的財産分野における薬価や医療技術等、②金融2社団法人 日本医師会(2013 年 2月 27日 定例記者会見)サービスにおける私的医療保険の拡大、③投資分野における株式会社の参入、の 3つが対象になれば、国民皆保険の崩壊につながると考えます。
日本医師会は、日本の国益に反する形でのTPP交渉参加には反対します。世界に誇る国民皆保険を守るためには、第 1 に公的な医療給付範囲を将来にわたって維持すること、第 2に混合診療を全面解禁しないこと、第 3に営利企業(株式会社)を医療機関経営に参入させないこと、の 3 つが必要です。TPP 交渉参加を判断する上で、この 3 つの条件が守られるよう、日本医師会としても厳しく求めていきます。
「ISD条項」とは?
ある国の規制によって外国の企業や投資家が損した場合、国際機関に仲裁を申し立て、相手国に賠償を求めることができる取り決め。米国が他国と結ぶ自由貿易協定(FTA)では、この条項を使って米企業が相手国に巨額の賠償を求める事例が多発。オーストラリアはこれを警戒し、2004年に結んだ米国とのFTAに盛り込むことを拒んだ。
( 2012-12-13 朝日新聞 朝刊 1経済 )