苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

遅塚忠躬『フランス革命―歴史における劇薬』

 遅塚忠躬『フランス革命ー歴史における劇薬』という本を読んだ。何十年ぶりかに読んでみると、よく書けているなあという感想。
 「劇薬」というのは、効能がある代わり恐るべき副作用があるという意味である。フランス革命は「自由・博愛・平等」というスローガンはまことに理想主義的であるが、この革命の中で内戦も起こり、自国民を100万人以上も死に至らせた。
 <貴族・ブルジョア・民衆と農民>という社会構造があって、ブルジョアと民衆・農民はともに「平民」に属している。ブルジョアは資本主義の邪魔になる封建的な諸制度をなくして自由市場がほしい。民衆・農民はとにかくパンが欲しい平等が欲しい。
 まずブルジョアが中心になって、民衆・農民の協力を得て、自由を実現しブルジョアを富ませる立憲君主制を実現する。しかし、革命に協力した民衆・農民としては生活が改善されないので飽き足りず、平等を実現するため身分制度の廃止を求め、ついに身分制度の頂点にいる国王を処刑し、教会の司祭たち、貴族たちをもギロチンにかけてしまう。さらにわずかばかりの農地を持っている農民たち(プチブル)は、土地を取り上げられてしまうことを恐れて反対したので、内戦が起こり殺戮劇が展開され、数十万の農民が命を落とした。
 興味深く思ったのは著者のスタンスである。フランス革命を礼賛するのは左派であり、フランス革命を罵倒するのは保守派であるが、著者はフランス革命の「情熱」にはある共感を示しながら、他方で明治維新の元勲岩倉具視の病床を訪ねた青年の明治天皇の写真を紹介したりして、天皇にも同情的な様子である。著者はフランス革命には偉大と悲惨の両面があるとしている。要するに戦後民主主義の枠組みの中にある割り切れない象徴天皇制の支持者なのだろう。

 私は全共闘世代よりも5年ないし10年くらい下の世代で、安田講堂陥落や浅間山荘事件やよど号事件をニュースで見て来た。理想主義的・左翼的革命というものの悲劇的な運命は、フランス革命からすでに予見されていたのである。本書は岩波ジュニア新書の一冊である。ジュニアというのだから、中学生に読んで欲しいというつもりの本なのでやさしく書かれているが、中身はなかなか濃い。

<追記 同日>

 著者は本書でフランス革命における「文化」については書かなかったから、宿題として自分で勉強してほしいとしているが、恐らくこの「文化」の問題が革命を悲惨なものにしてしまった理由なのだと思う。社会の文化・道徳的価値というものは、伝統的権威によって支えられているものであるが、かつてフランスにおいて、それは王室と教会であった。その二つの伝統的権威を単純すぎるデカルト的理性でナンセンスと否定してしまったために、フランス革命は暴走してしまったのだと思われる。それは同じ市民革命であり、王を処刑しながらも、社会の崩壊を見なかった英国の市民革命と比較するとわかってくることである。