苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

アンシャンレジームへの回帰

 遅塚忠躬『フランス革命―歴史における劇薬 』(岩波ジュニア新書) を読んで考えたことのメモ。

 安倍さんの好みのフレーズに「戦後レジームからの脱却」というのがある。「レジームrégime」ということばは、フランス革命前、ブルボン王朝の絶対王政時代の旧体制(アンシャン・レジームAncien régime)から取った「体制」という意味のフランス語のである。レジームといえば、アンシャン・レジームのことであり、それを覆すことは良き改革であると聞く者を錯覚させることが意図されていると思われる。
 しかし、安倍さんがしようとしていることの中身は、戦後の民主的改革の成果を否定して、アンシャンレジームに回帰することなのである。
 フランス革命の方法には急進性と暴力性という問題があったので、筆者はこれをもろ手を挙げて支持することはできない。フランス革命は急進的すぎたために、あまりにも多くの血を流した。ジャコバン派の恐怖政治の期間の死者は4万人といわれる。
 だが、それにしてもフランス革命がもたらした成果には近代市民社会にとって不可欠のものがある。実際にその成果が定着するには百年二百年かかっているのであるが。(逆に言えば百年二百年かかるものを頭でっかちに先取りしようとしたから流血が起こり、反動も起こった。)それは、政治についていえば民意が政治に反映する体制である。フランス革命で男性の普通選挙がなされることになった。人権についていえば所有権を絶対化して好き勝手に買占めたり物価を釣り上げてきたブルジョア(金持ち)に対して、独占禁止などを定めた。これは食料品が買えなくて苦しんでいた庶民の生存権の優位の原理の確立を意味する。また、公的扶助(国が貧しい人を助けること)は恩恵ではなく、国のの義務であるという理念もフランス革命の成果である。
 現政権は、消費税を上げて庶民の生活をますます苦しくし、金持ちを優遇する税制を敷き、死の商人の大企業を喜ばせる武器輸出三原則を緩和し、自由主義経済=弱肉強食経済で弱者をますます貧乏にする政策を推進している。また特定秘密保護法など基本的人権を脅かす法制を定めている。さらにTPPに入れば国民健康保険制度が骨抜きにされて庶民はまともな医療を受けられなくなる可能性が相当に高い。彼のいう「戦後レジームからの解放」とは、悪しきアンシャン・レジームへの回帰を意味しているというほかない。