著者が書いていることは、世界史に名を刻んだ大国は富裕層から税金を徴収することに失敗すると国民の間に格差が生まれ、最終的に国が衰退していってしまうという話である。格差が拡大すると、短期的には庶民にお金がないので内需が冷え込んで景気が悪化する。長期的には、庶民の中に現れる優秀な人材が教育を受けて世に出るチャンスを得られなくなるので、国として活力がなくなり衰退する。
首相が「愚かな政策、間違った政策」と言下に否定した富裕層・大企業への適正な課税こそ、「賢明な政策、正しい政策」ということになる。国家主義者の首相はこの国を強くしたくて、空母だ戦闘機だと買いあさっているが、やっていることはこの国をどんどん衰弱させている。
聖書的人間観から見て、トリクルダウン説は間違いである。人間は誰しもが堕落した利己主義者なので、金持ちに減税したって、おこぼれなど下には落ちて来ないで、ただただ金持ちが肥え太るのはあたりまえである。その結果、内需は冷え込み、社会全体の活力は失われ、国力は衰退する。だから、神は政府に剣の権能という強制力をもって、金持ちから多くの税を徴収できるように摂理なさっているのである。
本来、神が剣の権能(強制力)与えた政府の仕事は二つあって、一つは社会秩序を維持することであり、もう一つは富の再分配である。利己主義者たちを自然状態に放置すれば、弱肉強食の原理のゆえに、ごく少数の金持ちはますます金持ちに、貧乏人はますます貧乏になることは必然である。神が政府を立てた理由の一つは、こうした経済格差を是正するために、多く持つ人からは多く徴税し、貧しい人からは少なく徴税し、公共サービスをもって富を再分配することである。
ところが、現政権は、富の再分配をするとかえって貧困率が上がるという政策を取っている。政府が手を付けないほうが経済格差が少ないという状態である。これは世界では例を見ない異常事態である。こうして7人に1人の子どもは貧困が作り出された。「生活が苦しい」という回答は67.7パーセント。平均未満の所得者が62.4パーセント。日銀の調査によれば、一人暮らしで貯蓄なし世帯は20代で61パーセント、30代で40パーセント、40代で43パーセントに上る。一人暮らしが精いっぱいで結婚して子供を育てることが出来る状況ではないので、少子化はさらに進むだろう。自民党が今の経済政策を「この道しかない」と継続すれば、あと20-30年後にはこの世代の人々の半数はどうなるのか。
こうした状況になったのは、現政権が選択してきたまやかしのトリクルダウン説に基づく経済政策がまちがっていたからである。したがって、現政権が自らの間違いを自覚して国民に詫びて政策転換をするか、現政権がどこまでも愚かで頑なならば、より賢明な人々に政権担当を代わってもらうほかない。もっとも、このたびの選挙は参議院議員選挙なので政権交代を選択する選挙ではないので、国政に対して、まっとうな発言力をもつ人々が少しでも多く選ばれるようにと願う。