もう10年も前、中学生たちを相手に作文教室をしていたことがありました。教会のメンバーのS兄が奨めてくれて始めたことです。作文教室で意図したことは、基礎学力の養成です。
一つは人はことばを用いて考えますから、ことばを筋道立てて用いることが出来るようになれば、物事を筋道立てて考えることができるようになります。物事を筋道立てて考えることができるということは、学びの土台です。
二つ目は、探求心や注意力の養成です。作文を毎日、毎週書くとなると、その話題をさがして注意深く日々生活するようになりますから、自然に観察力や探求心が養われます。木々の芽吹きや、空の色や、道端の石ころ。友人や家族との対話やニュースや新聞の記事にも注意を向けて生活するようになります。
そして、三つ目はそういう生活をするようになれば、社会についても自然界のことについても対人関係についてもさまざまな関心と知識を持ち、感性を磨くことになります。
こういうことが基礎学力です。
作文のためには、「物語作文」について書かれた小さな本があって、これは役に立つなあと思って、それを骨子として自分の意見をちょいちょい加えながらのクラスでした。その小さな本の名が思い出せないのですが、ノートが残っていたので、作文で苦労している方にはきっと役に立つと思うので、ここにアップしておきます。
小中高と文章の書き方を習ったことがなく、苦労しました。なんでかなあと思ったら、明治に正岡子規が伝統の文語の美文を排して写生文を唱えたことに根っこがあるようです。私も子どものころ「思った通り書けばいいんだよ」と先生から教わった記憶があります。でも、思った通りを書くためには、少しは技術がいるわけです。
第一章 物語作文
1.まず物語作文から始めよう
文章を書く練習は、「物語作文」で始めるとよい。物語作文とは、自分の日常生活の一コマを取り上げて、その場面を思い描きつつ書く作文である。これは表現力を身につけて行く上でとても有効な方法である。「物語作文」は次の3つのルールを守りながら書く。
①時の順序で書く
②結果は書かないでプロセスを書く。かりに結果は書くとしたら、最後に書く。
③うれしかったことを「うれしかった」、悲しかったことを「悲しかった」、楽しかったことを「楽しかった」、つまらなかったことを「つまらなかった」とは書いてはいけない。その場面のようすをなるべく詳しく書く。例えば、次のように。
例>「悲しかったので泣きました。」とは書かないで、
→「胸が苦しくなって、がまんしても涙が次から次にあふれてきました。鼻汁まで出て来て、まるで私の頭が水がめになってしまったのかと思いました。」
2.すばやく作文を書く手順
準備 短冊型に切った紙をたくさん用意する。
①テーマについて思いつくこと、思い出したことを、ワンポイントずつ、別々の短冊に書いて行く。
②短文の書かれた短冊を眺めて、文章の構成(文章にする順番)を考えて、短冊を並べてみる。
③一度全体を通して読み直してみると、短冊と短冊の間に足りないことが見つかるので、それを新しい短冊に書いて、間に挟み込む。重複しているものは捨てる。また全体を読み直してみて、全体の流れ(構成)がよいかどうか、欠けがないかを見る。
④短冊に番号を振って、その順序に原稿用紙に書き出す。書いているうちに思いつくことも書き加えて行って良い。
⑤書きあがったら、もう一度、文章全体を見直して手直しする。
2.書き出しは作文の「いのち」
書き出しで引き込まなければ、読者はその先を読んでくれない。小説家は書き出しにいのちをかける。いや、生活がかかっている。
(1)セリフから書き出す方法
例えば・・・
改良前>きのう学校の帰り道に、ぼくは花子に聖書について少しむずかしい質問をした。すると花子は、「そんな質問されても、私には答えられないわ。そうだ。今度の木曜日の午前、牧師さんがうちに来るから、S君もうちに来ない?」
改良後>セリフから書き出すと・・・
「そんな質問されても、私には答えられないわ。」
花子はそう言った。きのうの学校の帰り道でのことである。ぼくが聖書について少しむずかしい質問をしたからである。花子は続けた。
「そうだ。今度の木曜日の午前、牧師さんがうちに来るから、S君もうちに来ない?」
(2)擬音語や擬態語から書き出す方法
例えば・・・
改良前> まもなく夏休みが終わろうとしているので、技術家庭の宿題の工作を私はようやく始めた。ホームセンターで板を買ってきて、それに鉛筆で線を書いて、ゴリゴリゴリ、ゴリゴリと鋸を引く。十分も作業すると汗が出てきた。・・・・
改良後>*擬音語で書き出すと・・・
ゴリゴリゴリ、ゴリゴリゴリ。十分も作業すると汗が出てきた。
まもなく夏休みが終わろうとしているので、技術家庭の宿題の工作を私はようやく始めたのだ。ホームセンターで板を買ってきて、それに鉛筆で線を書いて、ようやく鋸仕事が始まったのである。
つまり、セリフや擬音語で始めると、読者は「え?なんのことだろう?」と感じて、読み進めないわけに行かないのである。
3.感情の表現法
感情を表現するのに、「うれしかった」「悲しかった」云々と書いてはいけない。では、どのように感情を表現するのか?つぎの三つを使ってみるとよい。
- セリフで感情を表現する・・・「寒いわ」「海を見たい」
- 動作で感情を表現する・・・・突然背を向けた、黙り込んだ、頬をあからめた
- 場面の情景で感情を表現する・・雨が彼女の肩をぬらしていた、見上げると雲ひとつない空だった、庭の柿の木に一枚の葉っぱが残っていたetc.
4.活き活きとしたリズムのある文章の工夫
ただ過去形で書き連ねると、文章が重たく陳腐な印象を与える。そこで、過去形と現在形を交互に書くという手法がある。
改良前>ぼくは、りんごを手に取った。それはずっしりと重く、ひんやりしていた。そのままがぶりとかじったら、とてもすっぱかった。思わずぶるぶるっと震えた。
改良後>ぼくは、りんごを手に取った。それはずっしりと重く、ひんやりしている。そのままがぶりとかじったら、とてもすっぱい。思わずぶるぶるっと震えた。
過去、過去、過去、過去・・・という文章よりも、過去、現在、過去、現在とか、 過去、過去、現在、過去、過去、現在とか変化をつけると、リズムが生まれて文章が活き活きとする。
5.かっこいい結び方
物語作文のかっこよく印象に残る結び方は、場面の描写で終わることである。
東京タワーに出かけて、いろいろと見て回ったという経験を物語作文にした場合、その最後をどう結ぶか。場面描写で終わるとかっこいいという法則がある。例えば、ちょっと「くさい」例だけれども・・・
改良前>エレベーターのドアが開いた。これで東京タワー見学は終わりだ。おもしろかった。また来たい。
改良後>チャイムが鳴ってエレベーターのドアが開いた。お姉さんが鈴を振るような声で「1階でございます。またのお越しをお待ちしております。」と言った。ロビーから外に出て、僕はタワーをもう一度見上げた。赤い鉄の構造物が抜けるような青空を鋭く突いていた。
2章は意見文についてです。