苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

感情労働職とバーンアウトの防止

 今日、札幌もみじ台オアシス教会で、中澤先生のお話を聞いてきました。「福祉と教会―被介護者と介護者の隣人として」という講演でしたが、特に、「感情労働」とバーンアウト防止についての話は勉強になりました。
 憶えていることをメモしておきます。中澤秀一先生は、もとジャイアンツの選手として3年間を過ごし、その後、いろいろと経験した後に、介護の現場に入って天職を見つけ、その後、現場の経験を後進に伝えるために研究をまとめて、現在は東京基督教大学社会福祉学科で教えていらっしゃいます。

●介護される人にたいする介護者のあり方は、
「がんばれ」すなわち、外から励ますことでなく、「支える」すなわち、技術を提供することでもなく、「寄り添う」すなわち、痛みの過程に自分も参加することである。聞く、共感する、受け入れることである。

●介護する人の幸せのために・・・感情労働
1.ヒューマンサービス職(老人ホーム・病院など)の現場でバーンアウト燃え尽き症候群)は起こりやすい。
 一般社会はもちろん、施設長(施設経営者)さえも、介護現場職のたいへんさの本質がまるでわかっていないケースが非常に多いので、バーンアウトしてやめてしまう人がとても多い。

2.どういうプロセスを経て、バーンアウトしてしまうか?
 ①仕事を通して情緒的な消耗感をいだき、それがさらに進むと、②脱人格化が生じてしまう。つまり、被介護者。患者に対して優しさや思いやりをもつことができなくなり、冷酷になってしまう。そして、③個人的達成感が低下して、もはやその仕事にもどることができなくなってしまう。

3.介護職のたいへんさの本質は、肉体労働にあるのではないが、それを理解している人は少ない。介護職のたいへんさの本質は、それが「感情労働」であるということにある。感情労働職に期待されていることは、対面する人の中に何らかの感情変化をおこすことである。
 そのために、介護者は被介護者からぶつけられる拒絶や暴言などの精神的なストレスに対して、自分自身の感情をコントロールして、どんな場合も、明るく穏やかであることや、どの被介護者に対しても平等であることが期待される。しかも、一週間に一度というのではなく、介護者は、毎日、被介護者から拒絶されたり心無いことばをぶつけられたりする状況において、穏やかに明るくふるまうことが期待される。
 こうした環境において、自分自身の感情管理をするたいへんさが、感情労働職のたいへんさである。一週間に1日2時間だけなら、それらしく振舞うことですむかもしれない(表層演技)。しかし、それでは毎日接している被介護者からは見抜かれてしまうので、深層においてつまり心から穏やかに明るく振舞わねばならない(深層演技)。しかし、そうことを繰り返していると、介護者は自分の本当の感情がわからなくなってしまう。そうすると、不眠・イライラ・喫煙・飲酒・買い物依存などの症状が出て、バーンアウトしてしまう。

4.デブリーフィング
 介護者がバーンアウトしてしまうことを防止するのに有効なのは、デブリーフィングである。これは介護の現場で感じたことを、主観的でもよいから吐き出す場をもつということである。


<感想>
感情労働職」ということばを初めて知りました。老人ホームスタッフや看護師、学校教員、幼稚園教諭も感情労働職にあたるでしょう。そして、ある程度は牧師も。
 中澤先生が現場で介護職を経験して来られた上で、それを言葉化してTCU福祉学科学生たちにまた講演会で多くの人に、それを教えていらっしゃることが、有効で尊いことです。この種のことは、介護の現場を経験したことのない役人や、あるいは書斎の研究者では決してわからないことだと思わされました。学者や役人にも福祉に関して、それぞれの立場での役割はあるでしょうが、彼らは現場に指示する立場でなく、現場に耳を傾け現場に仕える立場にあることをわきまえなければならないと思いました。
 神学の営みと神学教育のあり方についても、いろいろ考えさせられます。

追記
「従来、肉体労働、頭脳労働という単純な二項分類において、感情労働は頭脳労働の一種としてカテゴライズされてきた。しかし一般的な頭脳労働に比べ、人間の感情に労働の負荷が大きく作用し、労働が終了した後も達成感や充足感などが得られず、ほぼ連日、精神的な負担、重圧、ストレスを負わなければならないという点に感情労働の特徴がある。
感情労働に従事する者は、たとえ相手の一方的な誤解や失念、無知、無礼、怒りや気分、腹いせや悪意、嫌がらせによる理不尽かつ非常識、非礼な要求、主張であっても、自分の感情を押し殺し、決して表には出さず、常に礼儀正しく明朗快活にふるまい、相手の言い分をじっくり聴き、的確な対応、処理、サービスを提供し、相手に対策を助言しなければならない。
つまり相手に尊厳の無償の明け渡しを半ば強制される健全とは言いがたい精神的な主従関係や軽度の隷属関係の強要である。年功序列や接客業など、こちらの生活や人生が相手の判断で左右される職種において発生しやすい。現代日本の労働環境において解決すべき課題の一つだと言える。
ゆえに、企業や労働者にとって事前に作業量の予測や計画を立てるのがはなはだしく困難であり、作業習熟による労働効率の向上があまり期待できない点において、従前の肉体労働、頭脳労働と決定的に異なる。」(Wikipedia)
 こりゃほんとにたいへんです。