苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

国語の勉強・・・麻生さんの「ナチスの手口に学ぼう」発言の理解

 麻生さんの発言について、何度読んでもわけわからんという人が多く、本人も取り巻きもごまかそうとするので、さらにわからなくなるので整理してみました。国語の問題と常識の問題です。


1.まず麻生さんが何を言ったか?

朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/politics/update/0801/TKY201307310772.html
 麻生太郎副総理が2013年7月29日、東京都内でのシンポジウムでナチス政権を引き合いにした発言は次の通り。


麻生副総理の憲法改正めぐる発言の詳細


 僕は今、(憲法改正案の発議要件の衆参)3分の2(議席)という話がよく出ていますが、ドイツはヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って、ヒトラー出てきたんですよ。ヒトラーはいかにも軍事力で(政権を)とったように思われる。全然違いますよ。ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください。
 そして、彼はワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。常に、憲法はよくても、そういうことはありうるということですよ。ここはよくよく頭に入れておかないといけないところであって、私どもは、憲法はきちんと改正すべきだとずっと言い続けていますが、その上で、どう運営していくかは、かかって皆さん方が投票する議員の行動であったり、その人たちがもっている見識であったり、矜持(きょうじ)であったり、そうしたものが最終的に決めていく。
 私どもは、周りに置かれている状況は、極めて厳しい状況になっていると認識していますから、それなりに予算で対応しておりますし、事実、若い人の意識は、今回の世論調査でも、20代、30代の方が、極めて前向き。一番足りないのは50代、60代。ここに一番多いけど。ここが一番問題なんです。私らから言ったら。なんとなくいい思いをした世代。バブルの時代でいい思いをした世代が、ところが、今の20代、30代は、バブルでいい思いなんて一つもしていないですから。記憶あるときから就職難。記憶のあるときから不況ですよ。
 この人たちの方が、よほどしゃべっていて現実的。50代、60代、一番頼りないと思う。しゃべっていて。おれたちの世代になると、戦前、戦後の不況を知っているから、結構しゃべる。しかし、そうじゃない。
 しつこく言いますけど、そういった意味で、憲法改正は静かに、みんなでもう一度考えてください。どこが問題なのか。きちっと、書いて、おれたちは(自民党憲法改正草案を)作ったよ。べちゃべちゃ、べちゃべちゃ、いろんな意見を何十時間もかけて、作り上げた。そういった思いが、我々にある。
 そのときに喧々諤々(けんけんがくがく)、やりあった。30人いようと、40人いようと、極めて静かに対応してきた。自民党の部会で怒鳴りあいもなく。『ちょっと待ってください、違うんじゃないですか』と言うと、『そうか』と。偉い人が『ちょっと待て』と。『しかし、君ね』と、偉かったというべきか、元大臣が、30代の若い当選2回ぐらいの若い国会議員に、『そうか、そういう考え方もあるんだな』ということを聞けるところが、自民党のすごいところだなと。何回か参加してそう思いました。
 ぜひ、そういう中で作られた。ぜひ、今回の憲法の話も、私どもは狂騒の中、わーっとなったときの中でやってほしくない。
 靖国神社の話にしても、静かに参拝すべきなんですよ。騒ぎにするのがおかしいんだって。静かに、お国のために命を投げ出してくれた人に対して、敬意と感謝の念を払わない方がおかしい。静かに、きちっとお参りすればいい。
 何も、戦争に負けた日だけ行くことはない。いろんな日がある。大祭の日だってある。8月15日だけに限っていくから、また話が込み入る。日露戦争に勝った日でも行けって。といったおかげで、えらい物議をかもしたこともありますが。
 僕は4月28日、昭和27年、その日から、今日は日本が独立した日だからと、靖国神社に連れて行かれた。それが、初めて靖国神社に参拝した記憶です。それから今日まで、毎年1回、必ず行っていますが、わーわー騒ぎになったのは、いつからですか。
 昔は静かに行っておられました。各総理も行っておられた。いつから騒ぎにした。マスコミですよ。いつのときからか、騒ぎになった。騒がれたら、中国も騒がざるをえない。韓国も騒ぎますよ。だから、静かにやろうやと。憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。
 わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。ぜひ、そういった意味で、僕は民主主義を否定するつもりはまったくありませんが、しかし、私どもは重ねて言いますが、喧噪(けんそう)のなかで決めてほしくない。


2.麻生発言がわからない理由

 ヒトラーの政権簒奪の歴史の常識のある読者が、麻生さんの発言を何度読んでも理解できないのは、麻生さんがヒトラーのしたことを知らないからではないかと思われる。


(1)麻生さんの発言趣旨
 ナチスがワイマール憲法を合法的に静かに国民を納得させて改憲してナチス憲法としたように、日本国憲法も喧騒の中でなく静かに国民が納得するように改憲してほしい。


(2)麻生さん独自の近代ドイツ史
 ナチスはワイマール憲法を、合法的に、静かに国民を納得させてナチス憲法に改めた。


(3)麻生さんの知らない高校世界史で習う事実
 ナチスはワイマール憲法を1933年3月23日の全権委任法の成立によって停止したのであって、ナチス憲法など定めてはいない。
 ナチスは全権委任法を、国民をだまし喧騒の中で決めた。ナチスは国会議事堂放火事件を引き起こしてこれを共産主義者のしわざだと決め付けて、緊急事態だとデマ宣伝で国民をあざむき、共産党員を逮捕するなど、数々の脅迫と謀略をもって全権委任法律をかたちばかりは「合法的に」成立させ、全権委任法によって、内閣で決めたことが法律として機能することになったので、ワイマール憲法は事実上、停止させられてしまった。(詳細はWikiで)




3.麻生さんの発言撤回コメントは無理

 麻生さんは8月1日になって発言を撤回しこれについてコメントをした。だが、無理な内容である。

 7月29日の国家基本問題研究所月例研究会における私のナチス政権に関する発言が、私の真意と異なり誤解を招いたことは遺憾である。

 私は、憲法改正については、落ち着いて議論することが極めて重要であると考えている。この点を強調する趣旨で、同研究会においては、喧騒(けんそう)にまぎれて十分な国民的理解及び議論のないまま進んでしまった悪(あ)しき例として、ナチス政権下のワイマール憲法に係る経緯をあげたところである。私がナチス及びワイマール憲法に係る経緯について、極めて否定的にとらえていることは、私の発言全体から明らかである。ただし、この例示が、誤解を招く結果となったので、ナチス政権を例示としてあげたことは撤回したい。

 麻生太郎副総理が1日に発表したコメント全文は上の通りであるが、これでは説明にならない。正直に「私はナチスは静かに国民を納得させてワイマール憲法を変えて、ナチス憲法を成立させたんだとばかり思い込んでいましたので、あのように言ったのです。」と釈明するのが恥ずかしかったのだろう。
 でも、もし発言撤回コメントの趣旨のように、「喧騒(けんそう)にまぎれて十分な国民的理解及び議論のないまま進んでしまった悪(あ)しき例として」「ナチスの手口に学べ」発言をしたのだとしたら、麻生さんにはまったく国語表現能力がないというもっと深刻な問題がある。実際のところは、麻生さんは頭のよい方だと思うが、歴史の知識とか漢字の読み方などをコツコツ勉強する努力を怠った付けだろう。
 これは想像だが、麻生さんは「ヒトラーによる全権掌握は非合法にではなく成し遂げられた」ということを聞きかじったので、国民をたくみにに静かに納得させてワイマール憲法を「ナチス憲法」に改めたのだと思い込んでいたのではないだろうか。そして、裸の王様の周囲はイエスマンばかりで正す人がいなかった。そのように考えるほか、麻生発言のつじつまを合わせる方法はない。


 だが、牧師というのも裸の王様になる危険性の多い職務。他山の石として自戒しなければならない。



追記>麻生さんのナチス発言で世界中から非難轟々です。発言撤回ではすみそうにありません。安倍内閣のおかげで、わが国は国際的にますます孤立しつつあります。
http://www.asahi.com/international/update/0801/TKY201308010064.html