苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

現実の戦争は語り継がれえない

 昨日、アウグスティヌスの義戦論のところで、「現実の戦争」ということを書いたことにちなんで、少々メモと本の紹介をしたい。
 現実の戦争が語り継がれることは、ほとんど不可能なのではないかとこのごろ思う。筆者が実際に聞いたことのある戦争とは、祖母、父、母、そして知り合いのお年寄りによるものだった。「空襲がたいへんだった」「食料が手に入らず苦労した」「竹やりの練習をした」というものである。それらも貴重な戦争体験にはちがいないのだが、ほとんど戦地の経験を聞くことがなかった。以前住んでいた場所の、隣家のご主人は大陸の経験者だったが、塹壕はたくさん掘ったが戦闘経験はなさっていない。
 考えた見たらあたりまえである。戦地でもっとも悲惨な目にあった兵士の大半は死んでしまっている。生き残った兵士の多くは、戦地であっても幸い戦闘経験や飢餓を経験したことがない。戦死とひとことにいうが、補給確保をおろそかにした軍指導部の過ちのせいで、先の戦争では実際には銃弾に倒れるより、餓死・戦病死者のほうが多かったのだそうである。飢餓や戦闘経験をして生き残りえたわずかな兵士は、あまりにも恐ろしい、罪深い経験については口を閉ざしたまま一生を終わってしまう。・・・そんなわけで、実際の戦争経験というのは、語り伝えられることはたいへん稀である。
  そんな中、戦争の現実を証言する貴重な書物があるので、ここに紹介する。人を殺すということがどういうことなのか、筆者は初めて生々しい声をこの証言に聞いた。そして、「汝、殺すなかれ」という戒めが人の良心には深々と刻まれているのだという事実を確認させられた。

アレン・ネルソン『ネルソンさん あなたは人を殺しましたか?−ベトナム帰還兵が語る「ほんとうの戦争」』講談社











*アレン・ネルソン講演http://www.news.janjan.jp/world/0802/0802030139/1.php 
*デーヴ・グロスマン『戦争における「人殺し」の心理学』ちくま学芸文庫