東京新聞「本音のコラム」(3/3朝刊)に戦後日本史の陰の部分について書かれた文章が載せられたので、ここに転載しておく。読売をはじめ自民党清和会におもねる大新聞がほとんどの中で、東京新聞は異色の存在。
「小沢氏の問題提起」 斎藤学
小沢一郎について語る際には「私もこの人物を好きではないが」という枕ことばを付けなければならないようだ。が、それは原稿で食べている人たちに課せられた規定らしいので私は気にしない。この人が図らずも提起している二つの問題(①米国との距離の再検討②戦後天皇制の再検討)は、旧帝国憲法の残滓に注目するという点で回避不能なことだと思う。
既に公刊されているように戦後日本は岸信介氏のようなCIAのエージェント(金で雇われたスパイ)によって作られた「米国に貢献する社会」である(『CIA秘録』上巻、pp170-184)。この暫定的体制が、もくろんだ当人たちさえ驚くような長期間の効果を示したのは、日本人の「おかみ(天皇・官僚)信仰」が並々ならぬものだったからだろう。
戦後体制作りの埒外にいた田中角栄が市民的嗅覚からこの偏りの修正を試みると、米国は直ちに反応し、その意を受けた検察によってつぶされた。
今回の小沢氏の一件も、この流れの中で生じた。彼は生き残らなければならない。今週の『週刊朝日』にある「知の巨人 立花隆氏に問う」という記事に共感する。血の臭いに吸い寄せられる鮫のように検察の刃で傷ついた者たちを一方的に批判してきた体制擁護の人は何故、『知の巨人』に祭り上げられたのだろう。」(精神科医)
http://www.amazon.co.jp/CIA%E7%A7%98%E9%8C%B2%E4%B8%8A-%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%BC/dp/4163708006
*ここで引用されているティム・ワイナー『CIA秘録』上・下(文芸春秋社2008年11月)は読んでみたい本。次のような書評がある。
CIA(米中央情報局)が謀略にかかわったのではないかという疑惑は、これまでにもいろいろ噂されてきたが、本書はそれを実名の情報源で明らかにしたものだ。著者はニューヨーク・タイムズで20年以上にわたってCIAを取材してきた記者で、本書は昨年の全米図書賞を受賞した。
CIAは戦時中の諜報機関を改組して世界の情報を収集する組織として作られたものだが、次第にスパイ工作に重点を置くようになり、さらに外国の政権を転覆する工作を行なうようになった。その実態を知ることなしに、戦後の国際政治は理解できない。CIAの情報収集は失敗の連続で、キューバ危機に際してもソ連の出方を見誤り、ウォーターゲート事件やイラン・コントラ事件など多くのスキャンダルを起こした。最近ではイラクに大量破壊兵器があるという報告を出して、イラク戦争の泥沼の原因となった。
他方、秘密工作ではベトナムのゴ・ジンジェム政権やチリのアジェンデ政権などを転覆したが、キューバのカストロ議長を暗殺する工作は失敗し、ケネディ大統領が逆に暗殺された。こうしたCIAの工作の中で、最大の成功を収めたのが日本である。CIAは岸信介を工作員として自民党に送り込み、岸はCIAの巨額の資金援助によって政治家を買収し、首相になった。岸の他にも、児玉誉士夫や正力松太郎もCIAの工作員だったことが、米政府の公開した文書で確認されている。
日米安保条約の改定や沖縄返還にあたっても、CIAの資金が大きな役割を果たした。資金供与は1970年代まで続き、「構造汚職」の原因となった。CIA東京支局長だったフェルドマンは「占領体制のもとでは、われわれは日本を直接統治した。その後は、ちょっと違う方法で統治してきたのだ」と語っている。岸や児玉は極右の保守主義をとなえて「愛国者」と自称していたが、実際には米国の資金提供を受けて国家の最高機密を売る「売国者」だったのだ。だから不幸なことに、日本の戦後史を理解する上でもCIAの活動を知ることは不可欠である。 (池田信夫)