世界で競争力を失う原子力発電
最大の米国でも運転終了が相次ぐ
・・・米国で赤字の原子力発電所が増える
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2017年には全米61カ所の原子力発電所(合計99基の原子炉)
のうち、半数以上の34カ所が赤字に陥った。
もはや安定した収益が見込めなくなり、新たに12基の原子炉が
2025年までに運転を終了する。
しかも10基は運転可能な期間を大幅に残しているにもかかわらず、
廃止を余儀なくされた。
今後さらに風力・太陽光の発電コストは低下する見通しで、
運転終了を迫られる原子炉の数が増えることは避けられない。米国の50州のうち、カリフォルニア州とハワイ州は2045年までに
州内の電力を自然エネルギー100%で供給する目標を掲げている。
・・・フランスは2035年までに50%へ縮小
・・・中国は原子力よりも風力が拡大
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21世紀に入って急速な経済成長に伴い、中国の国全体の発電量は一気に増加した。
いまや米国を上回って世界最大の発電量を誇り、日本の約6倍の規模になっている。
ただし石炭火力発電が全体の6割以上を占めていて、大気汚染の問題が深刻だ。
・・・インドをはじめ日射量が豊富な国々
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中国の西部からインド、中東、アフリカ全体には豊富な日射量があり、
太陽光発電のポテンシャルは大きい。
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世界の中で原子力発電の将来性を最も見通しにくい国はロシアである。
ロシアには日本に次ぐ37基の原子炉があり、新たに6基を建設中だ。
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ロシアは天然ガスが豊富なため、ガス火力発電の割合が約50%と高い。
原子力は20%弱で、自然エネルギーも水力発電を中心に
原子力と同じくらいの規模の電力を供給している。
他の国ほど風力と太陽光の資源に恵まれていない点を考えると、
原子力発電が長く生き残る可能性がある。
・・・老朽化する先進国の原子力発電所
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原子炉の数で第二位のフランスでも平均運転年数が34年に達しているほか、
第四位の日本と第五位のロシアは平均で約30年である。
・・・新設プロジェクトで遅延・中止の動き
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コスト面の問題から、プロジェクトを中止する事例が増えてきた。
米国では東部のサウスカロライナ州で2基の原子炉を新設する工事が
2013年に始まったものの、コストの超過により4年後の2017年に
中止に追い込まれた。
英国でも日立製作所が2基の原子炉の新設プロジェクトを進めていたが、
経済性を理由に2019年1月に計画を凍結したことは記憶に新しい。
このほかに台湾では1999年に開始した2基の原子炉の建設が
20年後の現在も完了しておらず、中止に追い込まれる可能性が高まっている。
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【以上、岩波書店「世界」2019年7月号掲載、石井雅也論文より抜粋】