苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

欲望と平和

ヤコブ3:18−4:3


序 8月6日は広島原爆投下の日、9日は長崎原爆投下の日、そして今週15日は敗戦記念日です。本日は、平和を作ることについてみことばに学びたいと思います。
 主イエスは「平和をつくる者は幸いです。その人は神の子どもと呼ばれるからです。」と祝福を与えてくださいました。平和をつくる者は神に祝福されているのです。そして、平和をつくることは神の子どもであるキリスト者の務めであり、真のキリスト者としてのしるしなのです。
 ヤコブの手紙は平和について、その逆である争いの問題について、その解決について教えているので、本日はここから学びましょう。


1 争いの原因は欲望

3:18 義の実を結ばせる種は、平和をつくる人によって平和のうちに蒔かれます。


 ここには「義」つまり正義ということばが出てきます。正義の実は平和のなかにあり、ほんとうの正義の人は平和をつくる人なのだと教えられます。 けれども、この世ではたいてい正義を言い立てる人というのは争いを起こす者です。私たちは争うときに「おれは正しい。おまえが間違っている。」「あなたは間違っています。わたしが正しい。」といって論じるものです。けれども、自分の義を言い立てて、そこに争いを作り出しているとしたら、ヤコブに言わせれば、その人はほんとうの意味で神様の前に正しい人なのかどうか、怪しいものです。神の子どもらしいとはいえないでしょう。「義の実を結ばせる種は、平和をつくる人によって平和のうちに蒔かれ」るものだからです。
政治家というのは、戦争を始めるために常に大義名分を言い立てるものです。時には捏造までして・・・。先のイラク戦争のとき、米国の大統領は、「米国CIAはイラクフセイン大量破壊兵器を隠しもっているという情報を手に入れた。このままでは中東の平和は破壊される。」という大義名分を言って、世界中を戦争に引きずり込みました。日本の首相はよく調べもしないでアメリカのイラク戦争を支持してしました。けれども、実際にはイラクには大量破壊兵器はありませんでしたし、米国CIAは大統領に「大量破壊兵器はありません」という情報を伝えていたのです。後日、CIAは公にブッシュ大統領を訴えました。 

 では、おおかたの争いの原因はなんなのでしょうか。みことばは続けます。

「4:1 何が原因で、あなたがたの間に戦いや争いがあるのでしょう。あなたがたのからだの中で戦う欲望が原因ではありませんか。 4:2 あなたがたは、ほしがっても自分のものにならないと、人殺しをするのです。うらやんでも手に入れることができないと、争ったり、戦ったりするのです。」

 ヤコブの手紙は、実もふたもないほどにはっきりと、あなたがたの争いの原因は、あなたがたの醜い欲望だと指摘します。私の高校時代の友人に弁護士をしている人がいますが、彼にあるとき「どんなふうな事件が多いの?」と質問をしました。そうしたら彼は「倒産した会社の後始末と、兄弟・親戚同士の相続争いやなあ。」と言っていました。相続争いで、仲がよかったはずの兄弟姉妹が争って、もう二度と口を利かなくなってしまうというふうなことが結構あるのですね。何が原因でしょうか?欲望です。「自分はあいつよりも得をしたい。」「わたしは、妹よりも得をしたい。」という金銭欲のために争いが起こり、血を分けた兄弟でありながら生涯憎み合うようになってしまうというようなケースが多いというのです。

 正義ではなく、実際には欲望が争いの原因であるというのは、個人の問題だけではなく、国と国の戦争においても同じことです。湾岸戦争の例を取り上げて見ましょう。米国の大統領の関係する多くの軍需関連企業とゼネコンが莫大な利益を上げました。
 ベルリンの壁が取り壊され東西の冷戦が終わったときから、米国の巨大な軍需産業は青息吐息になってしまいました。戦争がなければ、軍需産業は食べていけないのです。米国は軍需関連産業に従事する人々は3000万人と言われています。兵器というものは他の製品とちがって戦争がなければ消費しませんし、10年以上もたつと旧式になってしまうものですから、戦争がないと困るわけです。そこで、軍事関連産業は政府に働きかけて、戦争を起こすようにと仕向けるのです。
 湾岸戦争の結果、米国の軍産複合体は46兆円もの利益を得たそうです。軍産複合体とは、兵器会社と石油会社とゼネコンです。湾岸戦争前、軍産複合体は“冷戦終結”のせいで、全米で1位と2位の軍事企業「マクダネル・ダクラス社」と「ゼネラル・ダイナミックス」の両社は経営危機に陥っていましたが、湾岸戦争で立ち直りました。「砂漠の嵐作戦」で中東に展開したミサイル、戦車、ヘリコプター、戦闘機といった陸・空の主要兵器だけで総額は約2740億ドル(約36兆1680億円)にのぼります。石油産業は、1990年末の四半期で、米国大手石油18社の純益は前年の250%という額に達し、ブッシュ大統領とベーカー国務長官は、故郷テキサスの一族と米国軍事産業界に莫大な利益をもたらしました。
更に湾岸戦争後、破壊されたクウェート復興事業(約800億ドル、およそ10兆4000億円)のほとんどは、世界最大の建設会社「ベクテル社」をはじめとするアメリカの企業が受注し、残りをイギリスがさらっていきました。彼らは、中東を破壊し、中東を再建し、中東に莫大な負債をもたらすというパターンを繰り返して巨億の富を得てきたのです。

 私たちが平和を作ろうとするならば、私たちの個人生活においてであれ、国と国の争いの問題であれ、争いの原因が、立派そうな大義名分ではなく、醜い欲望であるという聖書の指摘をしっかりと受け止める必要があります。そうして、頭を冷やして目を覚まさなければなりません。自分個人についていうならば、「ああ、わたしは醜い金銭に支配されて、争いを起こしていました。ごめんなさい。」と神様と隣人の前で頭を下げることです。
 国家の問題についていうならば、権力者がかかげるような戦争の大義名分に惑わされないように頭を冷やしておくことが肝心です。先の戦争で政府は「アングロサクソン帝国主義は暴虐である。われわれは大東亜共栄圏を打ち立てて、アジアのすべての民を幸せにするのである」という理想を大義名分として、アジア諸国を侵略して行きました。
 今年4月、安倍政権は日本が平和主義憲法をもつ国家として、数十年守りつづけてきた武器輸出三原則を変更してしまいました。.1967年、佐藤内閣のとき武器輸出三原則が表明されました。(1)共産圏諸国向けの場合 (2)国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合 (3)国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合。 さらに、1976年三木内閣のとき、.武器輸出に関する政府統一見解が明らかにされました。 (1)三原則対象地域については「武器」の輸出を認めない。 (2)三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。 (3)武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。 こうして、わが国は、三木総理の表明意向、三原則対象地域以外でも平和憲法に立つ日本として、武器輸出を慎むいう歩みをしてきたのです。
 ところが、現政権は「防衛装備移転三原則」と偽善的な名に変えて、「①平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する場合、又は②我が国の安全保障に資する場合等に限定して」武器輸出をOKとすることにしました。「平和貢献のために」という大義名分を掲げて、武器を輸出するというのです。もしあなたの友達夫婦が激しい喧嘩をしていたら、あなたは「はい。出刃包丁を上げましょう。がんばって。」と言って渡すでしょうか。それが仲直りに役立つでしょうか。
 実際には、武器製造者・武器商人であるナントカ重工やカントカ金属などを喜ばせるための政策変更です。今後、メイドインジャパンと記されたミサイルや爆弾が、米国に敵対する勢力の人々を殺していくことになってしまいました。これは残念至極のことです。


2 どうすればよいのか?

 「欲望が争いの原因であるのだから、争いをやめたければ、その欲望を断ち切るほかない、我慢しなさい」と聖書は教えているのでしょうか。意外なことに、みことばはそのようには展開していません。「あなたがたのものにならないのは、あなたがたが願わないからです。」積極的に言い換えれば、みことばは、まず「ほしいものがあるならば、神様に願いなさい。」と奨めるのです。ほしいものがある時に、神様に目を向けないでいるから、その隣人のものが欲しくて欲しくてたまらなくなり、「あいつがあんなものをもっているのは贅沢だ。おれが欲しい」と思うようになり、ついには、「あいつを殺しても、俺はあれを手に入れる権利がある。」と思うようになって人殺しまでもしてしまうのです。恐ろしいことです。
 主イエスは「求めなさい。そうすれば、与えられます。探しなさい。そうすれば見つかります。叩きなさい。そうすれば開かれます。」とおっしゃいました。神様に求め、正当な方法で与えてくださるように願い、また、求め、探し、叩き続けるならば、神様はちゃんと与えてくださるものなのです。
勉強のできない子どもが勉強のできることをうらやんで、「○○ちゃんは頭がいいからいいねえ。わたし馬鹿だからだめだよ。」とか言うことがあります。じゃあ、その子は○○ちゃんが毎日努力しているような努力をしているかというと、していないという風なケースが多いのです。「求めなさい。そうすれば与えられます。」もし、よい成績が欲しいならば、毎日きちんと努力し勉強をするのです。そうすれば、その努力は非常に多くの場合、報われるものです。
 国のことで考えて見ましょう。先の戦争のとき、世界恐慌という困難な状況に世界の国々は苦しんでいました。そのとき、特にヨーロッパでは、第一次大戦の敗戦国ドイツは賠償金を莫大にかけられて貧困のどん底にありました。そこにヒトラーが出現して、積極的な対外政策を取りました。すなわち、ドイツ民族が住んでいる土地だ「東方生存権」ということを大義名分として、オーストリアチェコスロバキアハンガリーポーランドを次々に侵略し、他国の富を奪ってわがものとして自分は富もうとしたのです。
日本もその真似をアジアでしました。関東軍満州鉄道爆破事件を起こし、それを中国軍の仕業であるとうそを言って無理やり戦争を始め、満州を取り上げて満州国をつくってしまいました。長野県からも日本一多くの人が満蒙開拓団として大陸に渡りました。そして、世界の国々が日本を非難すると、財界を背景とした日本の政府も新聞も「満州国は日本の生命線である」と主張しました。満州がなければ日本は滅亡してしまうかのように新聞は書き立て、国民はその論調に乗せられて燃え上がりました。国際連盟ジュネーブ会議が開かれ、そこで松岡外務大臣満州国放棄を迫る国際連盟を脱退し、さらに、日本は日独伊三国軍事同盟に参加し、そして日米開戦となってしまいます。米国の工業生産力は当時、米国は日本の数十倍でした。勝ち目があるわけの無いことは、政府も軍部も承知していたにもかかわらず、です。
日本は無条件降伏をしたので、生命線だと思い込んでいた満州国朝鮮半島も台湾もすべて返還させられました。では、それで日本は滅亡したでしょうか?いいえ。この日本列島という島国のなかで、軍事は民生に転換して産業を発展させて、戦前よりもはるかに経済力を増して世界第二位、世界第三位にまでなりました。「満州がなければ日本は生きていけない」という宣伝はうそだったのです。やや適用範囲を広げすぎかもしれませんが、「求めなさい。そうすれば、与えられます。たたきなさい。そうすれば開かれます。」というのは真理だということの証左でしょう。人は与えられた条件のなかでまっとうな努力をすることによって、まっとうな報酬を得ることができるものなのです。人のものをうらやんだり、盗んだり、隣国の民の土地を奪ったり富を奪ったりして得ることのできる繁栄などは、呪われた繁栄にすぎません。長続きするわけはないのです。


3 正しい動機で願い求める
 
 ヤコブ書は、まず争いの原因は正義ではなく、実は醜い欲望である現実を認めよといいます。では、欲しいものがあるときどうすればよいかといえば、他国をねたむのでなく、願い求め努力せよと教えます。しかし、それでも得られないという場合がある、それはなぜか?というと「4:3 願っても受けられないのは、自分の快楽のために使おうとして、悪い動機で願うからです。」たとえばお金が欲しい理由が、酒池肉林の生活をしてみたいものであるとすれば、神様はご自分の子どもたちにそんな危険な富をお与えになることはありません。あったとしたら、悪魔が特別許可を得て与えたものにすぎません。
 ですから、大事なことは、正しい動機でもって、神様に願い、そして求めて努力することです。正しい動機とは、私たちが造られた目的である「心を尽くし、精神を尽くし、力を尽くして、あなたの神、【主】を愛す」ためと、「あなたの隣人を自分自身のように愛する」ためという動機にほかなりません。
 必要なものがあるとき、人であれものであれ金銭であれなんであれ、そうした正しい動機をもって、神様にイエスさまの御名によって求め、さがし、たたくならば、神様はちゃんと備えてくださいます。誰をもうらやみねたむ必要はありません。そこに、争いは起こりません。これが平和をつくる道です。


結び
 8月15日を前にして、私たちは目を覚まして、この国とアジアと世界の平和のために祈る者でありたいと思います。
 まず、「世界の平和のため」という大義名分をかかげて戦争の準備をし、兵器を売りさばいてもうけようとする人々の欺きに惑わされないように。現に今、経済的な苦境を、戦争や戦争の道具を売ることをもって打開しようという悪の道に私たちの国が走り始めていますから、それをやめるように祈りましょう。
私どもの国が、正しい動機をもって、まっとうな道による繁栄を私たちの国が目指していくように、為政者や財界や官僚など、この国の指導者たちのために祈りましょう。