苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

国のあり方について(その4)・・・国家体制の類型整理

4.国家体制の類型の整理


 民主的と専制的という修飾語と、立憲、君主制、共和制という3つの政体のスタイルの組み合わせを考えると政体の問題が整理できそうである。
 まず歴史の現実から考えて、筆者は民主制と君主制を対立概念とは考えない。字面だけみればいかにも対立概念なのだが、歴史の事実から考えて、両者を対立概念と見るべきではない。むしろ君主制と対立する概念は、大統領や主席を元首として立てる共和制である。
 では、民主ということをどう考えるか。むしろ「民主的」という形容句としてとらえるのが現実に則している。民意が政治に反映しやすい機構を備えた体制は民主的である。中華人民共和国朝鮮民主主義人民共和国があるように共和制が必ずしも民主的とはかぎらないし、現代の英国や北欧諸国のように君主制を採用しているからといって、必ずしも非民主的とはかぎらない。これが歴史の現実である。
 民主的体制を維持するための重要な装置は、まともな憲法である。まともな憲法とはなにか?フランス人権宣言(1789年)が教える。16条「権利の保障が確保されず、権力の分立が規定されないすべての社会は、憲法をもつものではない。 」つまり、まともな憲法とは三権分立と人権尊重の二大原理を持つ憲法である。基本的人権の中に国民の参政権が含まれており、参政権をもって国民主権を表現する。憲法は、基本的人権として、精神の自由(思想・良心の自由、信教の自由、学問の自由、集会・結社・表現の自由)・身体の自由(奴隷的拘束・苦役の禁止、不当逮捕の禁止、抑留・拘禁の禁止など)を表現していることによって、国家権力が自分に不都合な国民の政治参加であっても、これを弾圧することがないようにする。それゆえ、人権尊重なしの国民主権はありえず、両者はワンセットである。
 だが歴史の現実を見れば、必ずしもその憲法が、権力を制限する鎖の役割を果たしていない場合がある。それは、一応近代国家としての格好をつけるために憲法はつくったのだけれど、その憲法国民主権と人権尊重を軽んじている場合である。国民主権と人権尊重を制限して、国権を野放しにする憲法であれば、ほんらい憲法の名に値しないのであるが、インチキ憲法というものが現実にはあるから取り上げざるを得ない。こういうインチキ憲法であれば、共和制であろうと君主制であろうと合法的に専制政治全体主義政治)が行なわれることになる。戦前の日本は専制的でありながら立憲君主制だったので、外見立憲君主制と呼ばれる。わかりやすく言えばインチキ立憲君主制である。明治憲法の手本であるプロイセンビスマルク憲法による立憲君主制が、インチキ立憲君主制だったのである。
 また、「民主主義人民共和国」と看板をかかげ、人民主権を題目として唱える憲法をもっていても(第4条)、朝鮮民主主義共和国のように現実には専制政治が行なわれている場合もある。私はこれをインチキ立憲共和制と呼びたい。というわけで、歴史の中に現実にあった体制を考えてみると、次の五つになる。

 a.専制君主制・・・・・・17世紀ヨーロッパ列強諸国
 b.インチキ立憲君主制(内実専制君主制)・・・ビスマルク時代のプロイセン明治憲法下の日本。自民改憲案。
 c.インチキ立憲共和制(内実専制共和制)・・・ナチスドイツ、朝鮮民主主義人民共和国など。
 d.立憲君主制・・・現代イングランド、ベルギー、北欧諸国など。日本国憲法
 e.立憲共和制・・・アメリカ、現代のドイツ連邦共和国など。 

 実際に民主的、つまり、民意が政治に反映される体制は、立憲君主制と立憲共和制である。立憲共和制のばあい、大統領に象徴機能と実務機能を兼務させる米国やフランス第五共和政のようなタイプと、大統領に象徴機能を持たせ、実務機能は首相に持たせる現代ドイツ型がある。また大統領が実務・象徴を兼務していても、米国には首相はいないが、第五共和政フランスには首相がいるという違いがある。いずれにせよ、君主制であれ共和制であれ、その制度が実際に民主的に機能するための条件は、憲法において人権尊重と三権分立の二大原理だと思われる。
 日本の現状の体制についてはどう考えるか?国際的には日本は立憲君主制国とされている。立法・行政・司法の三権いずれも持っていない天皇は君主ではないという主張もあるが、そうすると天皇とは何なのかという難問が生じる。
 自民党改憲案(2012年4月27日)は、国民主権はことばでは言っているけれど(前文、1、15条)、基本的人権に「公益と公の秩序」(=国の考え方・都合)で制限を加えようとするものであるので(11、13、21、29条)、立憲君主制からインチキ立憲君主制に近づけることを意図しているものと見なせよう。

☆自民改憲案の問題点(その7)
  http://d.hatena.ne.jp/koumichristchurch/20121214/p1
☆自民改憲案の問題点(その8)
  http://d.hatena.ne.jp/koumichristchurch/20121215/p1