苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

自民改憲案の問題点(その7)・・・・・「公益及び公の秩序に反しない限り」とは

現行憲法では、基本的人権について11、12、13条で次のように述べている。

現行憲法
第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。


第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。


十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」

自民改憲案でも、11条で基本的人権の享有については一応、次のように表明されている。

改憲
「第十一条 国民は、全ての基本的人権を享有する。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利である」

しかし、これに続く12条、13条によって、「公益及び公の秩序に反しない限り」と制限を付けることによって、11条は骨抜きにされている。

改憲
「第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。」


「第十三条 全て国民は、として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。」

 つまり、現行憲法における「公共の福祉のために」「公共の福祉に反しない限り」とあるのを、自民改憲案はあえて変更したのである。「公益及び公の秩序」という文言の意味と、「公共の福祉」という文言はどのように意味が違うのか?自民改憲案QAによれば、次の通り。
 「公共の福祉」というのはAさんの人権とBさんの人権がぶつかった場合のことをさしている。つまり、他人の迷惑を考えて自分の人権の主張は調整する必要があるということ。しかし、「公益及び公の秩序」は「憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではない」という意味だとされている。人権同士の衝突でないとすれば、それは、人権が国権にぶつかる場合を意味する。時の政府が考える「公益と公の秩序」に反する人権は認めないということである。たとえば、政府は日の丸君が代に起立・斉唱するということを「公の秩序」だと考えているので、これに反することは違法化される。

改憲
第三条 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。」

 日の丸・君が代が国旗・国歌にふさわしいかどうかは今は別の議論として、ここで肝心なことは「公益及び公の秩序に反しない限り」という文言は、国の都合で、いかようにも拡大解釈できるという点である。国策として進められることに反することは、みな「公益及び公の秩序に反する」とされうる。たとえば、国策としての原発に反することが「公益及び公の秩序に反する」と国が判断すれば、反原発運動は違法化される。あるいは、かりに国が将来徴兵制を施行したとき、良心的兵役拒否をすることは違法化される。
 こういうわけで、12条、13条で「公共の福祉に反しない限り」を「公益及び公の秩序に反しない限り」と置き換えることによって、結局11条の「基本的人権」を空文化させているのである。


自民改憲案QA14番参照
http://www.jimin.jp/policy/pamphlet/pdf/kenpou_qa.pdf

「国歌でもめている国は日本だけではない」
http://d.hatena.ne.jp/koumichristchurch/20120302/p1

自民改憲案対照表
http://rijs.fas.harvard.edu/crrp/papers/pdf/LDP-Draft-Constitution-2012.pdf