苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

TPPに関するメモ3点

 TPP加盟はグローバリズムに向かう歴史の必然といった見方をする政治家やエコノミストたちがいる。かつて覇権を争っていたヨーロッパ諸国々がEUを形成したように、環太平洋の国々も自由貿易圏を作る方向にあるのだというのである。筆者自身、ぼんやりとそういうことなのかなあと思っていたのだが、中野剛志氏たちの座談会で具体的な数字を示されて、これはグローバリズムうんぬんといった話ではなくて、①米国が日本に農産物を売り込むための戦略であるということと、②TPPに加盟しても製造業の輸出は伸びないということ、③したがって、TPP加盟によって日本が得ることは国内農業の打撃だけであることがよくわかった。座談会で話されたことで、経済学についてまったく素人の筆者にもピンと来たことを3点だけ拾ってメモしておく。

1.TPPで米国は日本の農産物市場をターゲットとしている
 オバマ大統領は、「米国は、今後5年間で、TPPを利用することによって、農産物の輸出を倍増する」と表明している。では、米国は、TPP内のどこの国をターゲットとして、莫大な農産物を売り込もうとしているのだろうか?当然、その国は大きな市場がなければならない。つまり、お金があって、その国の農産物が米国が送り込む農産物よりも高価な国でなければならない。
 TPPの加盟国であるが、米国、オーストラリア、シンガポールブルネイ、チリ、ニュージーランド、ペルー、ベトナム、マレーシアの計9カ国であり、議長は合衆国大統領オバマ氏である。昨秋10月菅直人首相はオバマ氏に薦められて、日本も加盟すべきだと思い込んで、福山竜馬伝にあやかって今年の正月に「平成の開国」を唱えるようになった。そうなれば、TPP加盟国は10カ国になる。だがこの中には、中国も韓国も含まれてはいないことに注意すべきである。両国はTPPには両国にとってなんのメリットもないと判断したからである。さて、日本を加えた10カ国のGDP(国内総生産)の比率はどうなっているか。これが一応経済力と見なされる。
米国・・・・・・・・・・・・67%
日本・・・・・・・・・・・・24%
豪州・・・・・・・・・・・・・5%
残り7カ国合計・・・・4%(シンガポールブルネイ、チリ、ニュージーランド、ペルー、ベトナム、マレーシア)
 以上、十カ国の中で、大きな市場があり、自国の農産物が高価な国といえば、日本のみである。したがって、「今後5年間で、TPPを利用することによって、農産物の輸出を倍増する」という米国戦略のターゲットは、日本市場である。特に、米を初めとする穀物、畜産、酪農は危機である。オーストラリアは言わずと知れた、食料自給率230%の農業大国だから米国の対象外である。

2.TPPに加盟しても日本の製造業の輸出は伸びない
 「TPPに加盟すれば、アジアの市場が成長するとともに、日本の製造業は輸出を伸ばすことができる。」という経団連民主党のいうことは絵空事である。日本の車や電気製品を大量輸出できる相手国とは、日本製品が優位に立てる大きな市場がなければならない。つまり製造業が弱くて、多数の日本製品の購買者がいるということである。
 だが、TPP加盟国の中で、そんな国があるだろうか。GDPはアジア7カ国とオーストラリアのGDP合計はわずか9パーセントにすぎない。オーストラリアは、その可能性があるが、いかんせん人口が圧倒的に少ない。TPP構成国で大市場があるのは日本以外ただ米国のみであるが、そこは日本製品が圧倒的優位ではない。したがって、アジア市場をあてにしてTPPに加盟しても製造業の輸出は伸びない。TPPには中国も、韓国も含まれていないのだ。

3.TPPに加盟して得する国、損する国
 中国、韓国はTPPに加盟しないことを決めている。中国は自国に米国や日本の工業製品が無関税で流入すれば、製造業が壊滅すると観測し、韓国は自国に米国の農産物と日米の工業製品が無関税で流入すれば、製造業も農業も壊滅すると観測するからであろう。賢明な観測である。
 もともと工業製品は輸入し、農産物輸出で生きることを国策としている場合は、TPP加盟によって利益を得ることができる。典型は食料自給率230%のオーストラリア、食料自給率300%のニュージーランドである。ねらっているのは当然日本市場である。TPPに日本が加盟すれば、米国、オーストラリア、ニュージーランドの安い肉が洪水のように押し寄せ、日本の畜産業界は壊滅する。またコシヒカリに遜色ない米国カリフォルニア米、オーストラリア米が押し寄せて、大多数の日本のコメ農家は終わる。
 シンガポールブルネイ、チリ、ペルー、ベトナム、マレーシアといった国々のことは筆者にはよくわからないので、これらの国々がなぜTPPに加わろうとしているのかわからない。だが、これらの国々も米国と利害が一致すると中野氏は言っている。読者のうちで分かる方がいたら、教えてください。
 米国がTPPに加盟する意図は、上述のとおり、日本市場に米国農産物を売り込むことであり、製造業でも米国は優位に立てると見越している。そして、日本と利害が一致せず米国の利害と一致するTPP内の諸国の票数を利用して、米国に都合の良い取り決めをするのが米国の戦略である。二国間交渉ではいうことを聞かない日本も、TPPに引きずり込めば言うことを聞くだろうと予測しているのだろう。オバマ政権は日本人が「みんなが言っているじゃないか」「世界の孤児になるぞ」という脅し文句に弱いことをよく知っているのかもしれない。
 日本政府が、国内米農業は壊滅し、製造業の輸出も伸びる見込みもないのに、TPPに加盟しようとしているのはなぜか?内需拡大による景気回復を図ってきたがうまく行かないので、やはり外需はないがと探した結果、TPPによるアジアの経済成長にともなう製造業輸出拡大という夢を見たのである。しかし、経団連民主党政権の、製造業の輸出は伸びるはずだというのは、見込み違いである。
 もうひとつの理由は、足元ふらふらの民主党政権が、政権基盤の安定を目指しているからだろう。政権交代のころは米国からも自立するようなことを言っていたが、結局、過去、日本で安定政権を築いた佐藤内閣、中曽根内閣、小泉内閣という米国追随内閣に従うほかないと考えたのであろう。