はじめに
もう20年近く前、中学生たちを相手に作文教室をしていたことがありました。教会のメンバーで、中学校教員をしていたS兄が奨めてくれて始めたことです。作文教室で意図したことは、基礎学力の養成です。そのとき、役に立った昔作家を目指した今は学校の国語教員という著者の本があったのですが、書名を忘れてしまいました。
一つは人はことばを用いて考えますから、ことばを筋道立てて用いることが出来るようになれば、物事を筋道立てて考えることができるようになります。物事を筋道立てて考えることができるということは、学びの土台です。
二つ目は、探求心や注意力の養成です。作文を毎日、毎週書くとなると、その話題をさがして注意深く日々生活するようになりますから、自然に観察力や探求心が養われます。木々の芽吹きや、空の色や、道端の石ころ。友人や家族との対話やニュースや新聞の記事にも注意を向けて生活するようになります。
そして、三つ目はそういう生活をするようになれば、社会についても自然界のことについても対人関係についてもさまざまな関心と知識を持ち、感性を磨くことになります。
こういうことが基礎学力です。
私自身は小中高と文章の書き方を習ったことがありません。なんでかなあと思ったら、明治に正岡子規が伝統の文語の美文調を排して写生文を唱えたことに根っこがあるようです。私も子どものころ「思った通り書けばいいんだよ」と先生から教わった記憶がありますが、文章を書く上での具体的技術を教わったことはまったくありません。でも、実際には、思った通りを書くためには、技術が必要なのです。大学、神学校、伝道者の歩みの中で、作文力をつけるために何冊も「文章読本」を読みましたが、たいてい「多くの良書を読め」「わかりやすく書け」といった内容で、あまり役に立ちませんでした。
(そんな中で2つだけ役に立ったことがありました。谷崎潤一郎が言っていた「文と文のあいだに『間』を置け」ということ。もう一つは誰が言っていたか忘れましたが、「読ませる文章というのは、読み進めるにつれて発見があるように構成された文章である」ということです。ただこれらは少々高度な技法なので、本稿では扱いません。)
ここに紹介するのは、きわめて具体的・実践的な文章作法をまとめて中学生たちと学んだ内容です。そういえば、この作文教室にいた中学生の女の子が、作文コンクールで受賞したこともよい思い出です。家族にかんする楽しい文章を書く子でした。
目次
第1章 物語作文の書き方
1.まず物語作文から始めよう2.すばやく作文を書く技術
3.書き出しは作文の「いのち」
4.感情の表現法
5.活き活きとした文章のリズム
6.かっこいい結び方
第2章 意見文の書き方
1.自分の意見を持つ2.多くのメモを取る
3.手を変え品を変えて意見を伝える
4.意見文を書く準備
5.意見文の構成いろいろ
(1)結論先取り型
(2)序論―本論ー結論型
(3)起承転結型
第3章 小論文の具体的対策
1.論理的に正しく書く
2.抽象的主張に説得力ある具体例を織り込む
3.小論文のテーマいろいろ
第1章 物語作文の書き方
1.まず物語作文から始めよう
文章を書く練習は、「物語作文」で始めるとよい。物語作文とは、自分の日常生活の一コマを取り上げて、その場面を思い描きつつ書く作文である。これは表現力を身につけて行く上でとても有効な方法である。「物語作文」は次の3つのルールを守りながら書く。
①時の順序で書く
②結果は書かないでプロセスを書く。かりに結果を書くとしたら、最後に書く。
③うれしかったことを「うれしかった」、悲しかったことを「悲しかった」、楽しかったことを「楽しかった」、つまらなかったことを「つまらなかった」とは書いてはいけない。その場面のようすをなるべく詳しく書く。例えば、次のように。
例>「悲しかったので泣きました。」とは書かないで、
→「胸が苦しくなって、がまんしても涙が次から次にあふれてきました。鼻汁まで出て来て、まるで私の頭が水がめになってしまったのかと思いました。」
2.すばやく作文を書く手順
①準備 短冊型に切った紙をたくさん用意する。
②テーマについて思いつくこと、思い出したことを、ワンポイントずつ、別々の短冊に書いて行く。
③短文の書かれた短冊を眺めて、文章の構成(文章にする順番)を考えて、短冊を並べてみる。
④一度全体を通して読み直してみると、短冊と短冊の間に足りないことが見つかるので、それを新しい短冊に書いて、間に挟み込む。重複しているものは捨てる。また全体を読み直してみて、全体の流れ(構成)がよいかどうか、欠けがないかを見る。
⑤短冊に番号を振って、その順序に原稿用紙に書き出す。書いているうちに思いつくことも書き加えて行って良い。
⑥書きあがったら、もう一度、文章全体を見直して手直しする。
3.書き出しは作文の「いのち」
書き出しで引き込まなければ、読者はその先を読んでくれない。小説家は書き出しにいのちをかける。いや、生活がかかっている。
(1)セリフから書き出す方法
例えば・・・
改良前>きのう学校の帰り道に、ぼくは花子に聖書について少しむずかしい質問をした。すると花子は、「そんな質問されても、私には答えられないわ。そうだ。今度の木曜日の午前、牧師さんがうちに来るから、S君もうちに来ない?」
改良後>セリフから書き出すと・・・
「そんな質問されても、私には答えられないわ。」
花子はそう言った。きのうの学校の帰り道でのことである。ぼくが聖書について少しむずかしい質問をしたからである。花子は続けた。
「そうだ。今度の木曜日の午前、牧師さんがうちに来るから、S君もうちに来ない?」
(2)擬音語や擬態語から書き出す方法
例えば・・・
改良前> まもなく夏休みが終わろうとしているので、技術家庭の宿題の工作を私はようやく始めた。ホームセンターで板を買ってきて、それに鉛筆で線を書いて、ゴリゴリゴリ、ゴリゴリと鋸を引く。十分も作業すると汗が出てきた。・・・・
改良後>*擬音語で書き出すと・・・
ゴリゴリゴリ、ゴリゴリゴリ・・・十分も作業すると汗が出てきた。まもなく夏休みが終わろうとしているので、技術家庭の宿題の工作を私はようやく始めたのだ。ホームセンターで板を買ってきて、それに鉛筆で線を書いて、ようやく鋸仕事が始まったのである。
つまり、セリフや擬音語で始めると、読者は「え?なんのことだろう?」と感じて、読み進めないわけに行かないのである。ただ、この技法はあまりたびたびやると、鼻につくので注意。
4.感情の表現法
感情を表現するのに、「うれしかった」「悲しかった」云々と書いてはいけない。では、どのように感情を表現するのか?つぎの三つを使ってみるとよい。
①セリフで感情を表現する・・・「寒いわ」「海を見たい」
②動作で感情を表現する・・・・突然背を向けた、黙り込んだ、頬をあからめた
③場面の情景で感情を表現する・・「雨が彼女の肩をぬらしていた」「見上げると雲ひとつない空だった」「庭の柿の木に一枚の葉っぱが残っていた」etc.
5.活き活きとしたリズムのある文章
ただ過去形で書き連ねると、文章が重たく陳腐な印象を与える。そこで、過去形と現在形を交互に書くという手法がある。
< 改良前>ぼくは、りんごを手に取った。それはずっしりと重く、ひんやりしていた。そのままがぶりとかじったら、とてもすっぱかった。思わずぶるぶるっと震えた。
<改良後>ぼくは、りんごを手に取った。それはずっしりと重く、ひんやりしている。そのままがぶりとかじったら、とてもすっぱい。思わずぶるぶるっと震えた。
<説明> 過去、過去、過去、過去・・・という文章よりも、過去、現在、過去、現在とか、 過去、過去、現在、過去、過去、現在とか変化をつけると、リズムが生まれて文章が活き活きとする。
6.かっこいい結び方
物語作文のかっこよく印象に残る結び方は、場面の描写で終わることである。たとえば東京タワーに出かけて、いろいろと見て回ったという経験を物語作文にした場合、その最後をどう結ぶか。場面描写で終わるとかっこいいという法則がある。例えば、ちょっと「くさい」例だけれども・・・
<改良前>エレベーターのドアが開いた。これで東京タワー見学は終わりだ。おもしろかった。また来たい。
<改良後>チャイムが鳴ってエレベーターのドアが開いた。お姉さんが鈴を振るような声で「1階でございます。またのお越しをお待ちしております。」と言った。ロビーから外に出て、僕はタワーをもう一度見上げた。赤い鉄の構造物が抜けるような青空を鋭く突いていた。
第二章 意見文の書き方
1.自分の意見を持つ
意見文は、ある事柄にかんする自分の主張を、読者の頭と心に伝えることを目的としている。したがって、書き手は、まずある事柄について自分の明確な意見を持たなければならない。自分が伝えたい事柄がはっきりしていなければ、伝えることはできない。
2.多くのメモを取る
自分の意見を持つためには、さまざまな読書・経験・思索が必要である。思索のために、多くのメモを書くことはたいへん有益であり、書いているうちに考えがまとまってくるという経験をすることも多いが、それがそのまま意見文にはなるわけではない。多くのメモ書きを整理し、適切に配列するときに、相手に言いたいことを伝える文章になりえる。パスカルの『パンセ』はキリスト教弁証論を書くためのメモ書き集である。
3.手を変え品を変えて意見を伝える
自分の意見を伝えたいとき、書き手は、手を変え品を変えて、自分の意見を相手に伝えなければならない。
具体例「たとえば・・・・・」をあげ、
体験「私の経験では・・・・」をあげ、
引用「大先生もこう言っている」をあげ、
エピソード「こんな出来事からも・・・・」をあげて、
ひとつの意見を色々な角度から繰り返す。こういう具体例、体験、引用、エピソードなどについて、準備段階でメモをつくっていくとよい。
4.意見文を書く準備
(1)主題設定・・・自分が関心を持ち、詳しく知っていることがらを設定する。また、身近な問題を取り上げるとおもしろくなる。
(2)取材メモ・・・その主題について、ほかの人が新聞や本でどんな意見を述べているか、手当たり次第に調べてメモカードを作る。パソコンであれば、一つのフォルダーの中に、メモファイルを集積して行けばよい。
(3)自分の意見を見出す。
メモを眺めて、自分としてはこのテーマについて、どういう意見を持つかを考えをまとめ、それが論証すべきポイントとなる。
(4)メモを同類ごとにまとめる。
(5)分類されたメモ群を適切な順序に構成する。
5.意見文の構成
意見文の構成(配列順序)には、幾通りも方法がある。主題、想定する読者、長さ、時と場合に応じて、どういう構成をとるかを選べばよい。配列によって、効果の違いが出てくる。
(1)結論先取り型
序論 主題を提示し、自分の意見を述べる
理由1
理由2
理由3
結論 もう一度自分の意見を述べる
* 長所は論旨がきわめて明快になること。
* 与えられている字数が原稿用紙二枚というふうな場合に向いている。
* 短所は、結論が最初から出ているので、おもしろみには欠けること。
*理由1~3に自分の体験、大先生の引用、例などを挙げる。
<実例>
われわれはバッタを食糧資源にすべきである。
理由は第一に飛蝗現象によって大量に発生すること。
第二に植物をタンパク質に変化させるのに豚や牛よりも効率がはるかによいこと。
第三に殺虫剤をばらまく副作用をさけられることである。
第四に私は蝗の佃煮が大好物である。
ゆえにバッタを食糧資源にすべきである。
(2)序論・本論・結論型
序論 主題提示・・・・ある問題を提示する
本論1
本論2
本論3
結論 以上により、自分としての意見を述べる。
*論文はたいていこういう書き方をする。各本論を時間をかけてそれぞれに整えて行けば、長い論文も書ける。
*本論1、本論2、本論3・・・・がそれぞれに小さな論文であり、それぞれに小さな結論を出す。そして、それが最終的結論を支持するように構成する。1,2,3が綜合的に3に結び付いていくのが望ましい。
*結論は最後までとってあるので1よりおもしろい。
<実例>
食糧危機と飛蝗の害にいかに対処すべきか。
殺虫剤の大量散布をすべきではないか。だが、殺虫剤の害もある。
昆虫を食糧としている文化がある。蝗の佃煮は日本でも信州で食べられている。
昆虫が植物を食べてタンパク質に変換する効率は家畜のそれよりもはるかにすぐれている。
私は蝗の佃煮が大好物である。だれでも食べられると思う。
昆虫食を食糧とすることは合理的である。ただし食べやすく工夫する必要がある。
(3)起承転結型
起 主題を提示する
承 主題を受けて世間一般的な意見を書く
転 「だが、こうは考えられないだろうか?」と独自の意見を書く
結 承と転を総合し、転を強調して結論付ける
* 漢詩の四行詩、絶句に倣った構成である。新聞のコラムなどは、たいていこの構成。
*(1)(2)に比べると、慣れるまで少々むずかしいが、起承転結の構成は読者を引き込む力がある。
*原稿用紙5枚程度までの短い意見文に向いている。「転」がポイントである。これがつまらないと、ほんとにつまらない意見文になる。「世間一般でこういわれるが、私もそう思う」ではダメ。「転」で「え?」と思わせて、「それもそうだなあ。そういう考え方もあるか」と思わせなければならない。
<実例>
現代世界の問題の一つは食糧危機の問題であり、飛蝗の害は食糧生産にとって脅威である。
我々は殺虫剤散布をもってこれに対応すべきではなかろうか。
だが、農薬散布の害も大きい。むしろ、飛蝗はトノサマバッタであり、地域によっては昔から食料とされてきたことに注目すべきではなかろうか。昆虫は牛や豚を育てるよりもはるかに効率的に牧草をタンパク質にすることができる。それに実際に食べてみれば、同じ甲殻類のエビみたいなものである。
家畜の生産も必要であろうが、大量発生したトノサマバッタをたんぱく源として用いることを工夫すべきではないか。
<実例2>
春暁 孟浩然
春眠 暁を覚えず
処処 啼鳥を聞く
夜来 風雨の声
花落つることを知る多少なるを
第三章 小論文の具体的対策
序 高校受験で、小論文が課せられることがある。その場で、例えば「環境問題についてどう考えるか?」「インターネットについて」などといった課題がいきなり出されて、30分や1時間で原稿用紙2,3枚に書くことを求められる。どのように対処したらよいかについて、ここではまとめた。
まず次のことをしっかり腹におさめておくことが肝心である。
大原則:小論文は①論理的に、かつ、②抽象的主張に具体例を交ぜて書く。
小論文は内容の深さはともかく、上記2点を守ることが肝心である。
1.論理的に正しく
論理的な文章というのは、筋のとおった文章である。それは、主張と、提示される根拠のつながりが明かな文章である。逆に非論理的文章とは、主張と提示される根拠のつながりがあいまいであるか、書き手のただの思い込みであったり、矛盾していたり、話題がそれていく文章である。
×「非論理的な文章」の例
「政府は環境問題を重要だと叫んでいる。私も、それがとても大事だと思う。そして、教育問題も大事だと思う。学校に行けなくなる子供がともても多いのはいじめが原因なのに、それが隠されているのではないだろうか。こどもの健康のため、給食の改善も大事だろう。しかし、食料危機が近いと叫ばれる。食料自給こそ、すぐに組むべき課題である。」
〇「論理的な文章」の例
「政府は環境問題を大きな声で訴えている。私もそれがとても大事だと思う。しかし、政府が原発をベース電源としている点で、環境問題への取り組みは本気なのだろうかと疑問をもつ。なぜなら、第一に原発は廃棄物の処理方法がいまだ見つからず、第二に万一事故があれば周辺地域を広範囲に汚染するからである。しかも、政府はこれを再稼働しようとしている。私は本気で環境がたいせつだと思うなら、まず脱原発を決断すべきだと思う。」
<解説>500~800字程度のごく短い小論文では、起承転結の構成を無理につくるよりも、結論を先に持ってきて、その理由説明をしていく形が、自分でも頭を整理しやすく、明快な文章が書ける。
私は・・・・・だと考える。
なぜなら、第一に・・・・・・・・・だからだ。
第二に・・・・・・・・・だからだ。
第三に・・・・・・・・・だからだ。
したがって、私は・・・・と考える。
大切なのは論理の道筋に誤りがないこと。特に「そして(付加・並立)」「しかし(逆接」「さて(話題転換)」「なぜなら(理由説明)」など接続詞が重要。そして、文章全体を通して筋が通っていることであある。
2.抽象的主張に説得力ある具体例を織り交ぜる
例えば「読書はたいせつだ」という言葉は抽象度が高い。だが、具体性がないから説得力がない。これに理由と具体例をつけると説得力が増す。
下は、結論を先に書いて、理由を三つ述べ、それぞれの理由に、具体的説明を付けた例文。「読書の重要性」について記された評論文のあとの自由作文の例。
<実例>~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私は、読書は人生において大切だと思います。第一の理由は、漢字をたくさん覚えられるからです。私は中学時代のクラスで「漢字コンテスト」をして一番になったことがありますが、それは小学校の時には少年少女世界名作文学全集、中学に入ってからは父の現代文学全集を読んできたので、たいていの字の読み書きができたからです。
読書がたいせつな第二の理由は、私たちは自分が直接経験できないことを読書をとおして経験することができるからです。私は長野県の野辺山で生まれ育って都会で生活したことはないし、沖縄に行ったこともないし、もちろん外国生活もしたこともありません。けれども、読書を通じてであれば、外国の生活や都会の生活や沖縄の生活も少しは追体験することができます。
第三の理由は、多くの読書をして多くの文章にふれ、間接的な経験をすると、自分でもそういう文章が書けるようになるからです。ある有名な小説家が書いた文章の書き方という本を読むと、最初の所に、「よい文章を書けるようになるには、とにかく多くの文章を読みなさい。」と書かれていました。そして、結論にも同じことが書かれていました。それを読んで、やっぱりよい文章を書く秘訣は読書なんだなとわかったのです。こういうわけで私は読書は人生で重要なことだと確信しています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
とても素朴な構成だが、これならば、自分の頭の整理もしやすく、書きやすく、論旨が明快である。
3.小論文のテーマいろいろ
小論文のテーマといえば、次のようなものが設定される。800字以内で書いてみよう。
「環境問題」
「読書」
「携帯電話」
「インターネット社会のモラル」
「家族」
「モラルと公共性」
「ボランティア活動について」
「高齢化社会について」
「複数の言語を学ぶことの大切さ」
「動物園の是非」
「人権や差別」
「戦争と平和」
「国際化と貧困」