苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

妖怪VS闇将軍

 若い日にはカエル、古典国文学、哲学そして神学というふうに、筆者は政治のことには、さほど関心ももたずに生活をしてきた。だが、神学校で丸山忠孝先生から教会史を学んだとき、「教会と国家」という観点なしには、聖書も教会の歴史も正しく読み解けないことを知った。宣教の現場に出て見ると、靖国問題を中心にますます「教会と国家」のことを考えざるを得なくなったが、関心範囲はその関連のみであった。
 ところが昨年政権交代が起こり、その前後から東京地検特捜部・マスコミの動きの異常さを感じた。テレビのない筆者でも、ラジオニュースでなるべく国会中継は聞くのだが、何度聞いても、予算委員会なのに予算審議はそっちのけで小沢一郎民主党幹事長の政治とカネの話に辟易させられた。それも、石川議員逮捕の後には、きのう供述したことが今日にはすべて公表されているような錯覚を起こすほど事細かな報道だった。あきらかに国家公務員法違反の検察リークである。しかも、釈放された石川議員の言うことが事実ならば、検察がマスコミに流して国民を動かしたのはガセネタのようである。
 自民党民主党を叩くのは当たり前のことだが、独立しているはずのマスコミと検察が連動していると思わざるを得ないさわぎだ。検察とマスコミは選挙を前に民主党代表を叩いて失脚させ、政権交代後も、なおしつこく民主党幹事長をよってたかって叩き続けた。それが不思議だった。
 筆者はだんだん腹が立ってきた。私はこういう卑怯者たちのやり口が嫌いなのだ。赤青黄黒の正義の味方4人組ナントカレンジャーが、一匹の怪獣をよってたかってやっつけるのも卑怯者だと思うし、湾岸戦争とかイラク戦争で大国がよってたかって小国イラクをやっつけたのも卑怯だと思う。もし正義の味方を自称するならば、ハリスの風の石田国松みたいに、たとえ自分が不利であろうと正々堂々と一対一でやれと思ってしまう。しかも、「関係者によれば」などと自分は匿名で安全地帯に隠れて相手を刺す検察のやり口は、卑怯この上ない。民主党幹事長がどんな怪物であるとしても、マスコミと特捜は卑劣だ。しかも結局、大山鳴動してネズミ一匹で不起訴。だが、そのダメージは大きく、民主党の支持率は凋落した。ただ「政治とカネ」キャンペーンは自民党自身にはねかえって来て、自民党の支持率も落ち、新聞の購読者数も減って産経は倒産寸前、特捜は正義の味方と信じる人は減ってしまった。自業自得である。

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 今回の動きの背景について書かれた文章をいくつか読んでみると、これは1970年代からつづく自民党内の清和会と旧田中派という派閥の暗闘なのだそうである。さらに清和会の背景にはCIAと読売と日本テレビが味方をしているのだともいう。「CIA」まで出てきたので、いわゆる陰謀史観かと眉に唾をしたが、これは米国で情報公開法に基づいて公開されている公文書に記録された事実だった。そこで、知ったことを自分のために以下に少々覚書としておく。特に興味をひいたのは清和会の大本となる岸信介という人物のことである。
 1958年生まれの筆者にとって、物心ついて首相として記憶する最初の人は佐藤栄作である。その実兄岸信介の60年安保騒動のときは2歳だったから記憶にない。岸は戦前は官僚として満州に異常な権勢をふるい、開戦時は商工大臣であった。当然、A級戦犯嫌疑で巣鴨プリズンに収監された。だが、秘密裏にCIAエージェントとなることと引き換えに、岸は右翼の児玉誉士夫、読売の正力松太郎とともに、1948年12月24日、釈放された。東条英機らが処刑された翌日のことである。
 岸らが釈放された背景には、収監中の国際情勢の急変があった。1945年8月15日に敗戦、日本国憲法が1946年11月3日に公布され、日本は民主化戦争放棄の道を進み始めた。ところが、大陸ではソ連に助けられた毛沢東蒋介石との戦いを有利に進めていた。実際、翌1949年には中華人民共和国の成立を見、1950年には朝鮮戦争が勃発する。このため米国は、日本を「共産主義に対する防波堤」にすることに方針転換をした。そのためにCIAが日本社会に送り込んだ工作員が、岸信介と正力と児玉であった。岸は政界で、正力はマスコミで、児玉は暗黒界(ヤクザと右翼の世界)でそれぞれCIAに貢献することを期待された。
 多くのスポーツの中で、なぜ相撲と野球のみがテレビやラジオや新聞で報道されるのだろう、筆者はそんな疑問を持っていた。相撲は「国技」であるとされるから、半国営であるNHKが国民精神醸成のために取り上げる意図はわかりやすい。一方、野球は、日本国民を親米派にするためのマインドコントロールなのであろう。メジャーリーグは今も日本人の憧れである。読売巨人軍オーナー「プロ野球の父」であるCIA正力松太郎はそれに相当成功した。読売新聞の読者で、ジャイアンツファンというのは、CIAの意図したとおり、親米派にマインドコントロールされているわけだ。また正力は1956年、原子力委員会初代委員長にもなっている。これも気になる。
 それはそうとして、釈放後、岸は「自主憲法」「自主軍隊」「自主外交」というスローガンをかかげて日本再建を訴える。紆余曲折はあったが、1955年岸は鳩山一郎とともに自民党をつくって、その幹事長となり、1956年には外務大臣、1957年には内閣総理大臣となった。岸の2つのスローガン「自主憲法」「自主軍隊」は「日本を共産主義に対する防波堤」とする米国の意向を汲むものである。米国は日本に民主主義・平和主義条項を持つ憲法を許したことを、早くもこの時点ですでに後悔していた。日本軍をアメリカが己が覇権のためにアジアで行なう戦争に動員できなくなってしまったからである。「自主外交」というのは単なるカモフラージュにすぎない。岸は秘密裏にCIAから莫大な政治資金を得て、政治活動をしていた。(追記 アメリカ資金を利用しつつ、自主を目指していたのだといううがった見方にも一理あるとは思うけれど。)
 60年安保騒動のときは、国会議事堂は安保反対の30万人ものデモ隊に包囲された。警察隊だけではデモを鎮圧できないと見て、岸は自衛隊出動を防衛庁長官赤城宗徳に打診したが、「自衛隊が国民の敵になりかねない」と断わられた。そこで岸は、右翼のドンでCIA仲間である児玉誉士夫に頼んで日本中の暗黒外のボスを糾合しヤクザを総動員して、デモ隊鎮圧にあたらせ、多くの重傷者を出した。なんだか映画みたいな話だが、事実である。騒動のせいで予定されていたアイゼンハワー来日は中止されたものの、日米安保条約は自然成立する。岸内閣は騒動の責任をとって総辞職した。その後、表の世界に出られなくなった岸は政界に未練があったために、あな恐ろしや、妖怪となってしもうたのじゃ。
 わしの記憶のなかでは、岸の実弟佐藤栄作の長期政権が終わってしもうた後、自民党の総裁選が話題になるたびに「政界の実力者」とか「妖怪」とかいう紹介でテレビにちらりと出てきたのが岸であったわいのう。佐藤栄作の後、岸は自分の派閥を譲った福田赳夫自民党総裁をさせるつもりだったのじゃ。ところが、福田は「今太閤」田中角栄に総裁選で大敗してしもうた。ある人々に言わせればこれは明治維新以来の大事件じゃ。明治以来エリート官僚と官僚上がりの政治家が中心の政府から、国民が選挙で選んだ小学校卒の総理大臣の政府への政権交代だということであったというわけじゃ。総理大臣となった田中角栄は米国から独立独歩することをめざし、中国と自主外交をして国交正常化を果たしたのじゃ。
 ところがじゃ、この国交正常化は、日本に置き去りにされた米国を怒らせることになってしもうた。1976年、米国から不審な書類のつめられた箱が送られてきて、東京地検特捜部が動きだした。ロッキード事件じゃ。田中下ろし騒動の中、テレビ画面に登場したのが、妖怪岸じゃった。岸がダーティイメージを付けられた田中のあとに一時しのぎにすげ替えた首は、クリーン三木じゃった。その事件の背景にはCIAの影がちらついていたんじゃ。事件の結果、田中角栄は表舞台に出られなくなったが、政界に未練をたっぷり残した角栄は「闇将軍」となってしもうた。

 以後、田中派・旧田中派(田中〜竹下〜小沢)の勢力はその後も衰えを見せず、「妖怪」岸以後の清和会(福田赳夫〜森・小泉・安倍)との暗闘がつづいた。妖怪と闇将軍の暗闘じゃ。妖怪と闇将軍が死んで後も、その暗闘は今日にいたっているんだそうな。おそろしいことじゃのう。今回の小沢叩きもこういう視点で見ると、エリート官僚と官僚出身政治家を中心とする政治と、選挙によって選ばれた政治家による政治との戦いなのだと民主党寄りの論者は表現するんじゃ。
 それにしても、米国CIAの手先として全国の政界財界ヤクザ界を操る「妖怪」対キングメーカーと呼ばれた「闇将軍」の暗闘。なんというおどろおどろしい世界じゃろうか。事実は小説よりも奇なりというが、ほんとうに映画のような話じゃのう。ところが妖怪も闇将軍も恐れておるのが、いよっ正義の味方、東京地検特捜部!・・・だと思っておったら、なんと東京地検特捜部は、CIAの意向を受けて、米国にとって邪魔な政治家を抹殺するためのGHQ以来の組織なんだというのじゃ!これはいい加減な「関係者」やトンデモ本陰謀論者が言っているわけではないぞよ。元外務省情報局長孫崎亨氏がそのことをまるで常識であるかのように、さらりと断言しておる。わしなど、びっくり仰天じゃ。嘘じゃと思う読者は次の記事を見られよ。「特捜部は、日本の権力者に歯向かう役割でスタートした。その後ろ盾には米軍がいたんです。それが今も続いているんです」 〜1月14日孫崎享元外務省国際情報局長インタビュー13(2010-02-12 岩上安身ホームページ)
http://blog.goo.ne.jp/yampr7/e/57ea74ffab6f67755e6a1c269c3d7153 
なるほど、これでは法務大臣も特捜部に対して腰が引けているわけじゃのう。法務大臣も、白でも黒にしてしまうことのできる特捜に、自分が逮捕されるのは恐ろしいからのう。国に対して地方分権を唱え、原発批判を繰り広げた元福島県知事佐藤栄佐久さんを収賄容疑をでっちあげて抹殺した特捜のこわさを法務大臣も知っておるのじゃろう。
 もっとも、映画にするには、情報が不足しているのは財界と政界のつながりである。また、自民党と対極にたつ左翼側にもソ連やらの資金が流れていたというふうな裏面史もどこかの国の公文書が資料として公開されなければ、一面のみを見せられることになってしまうわけだが。権力とカネをめぐる闘争には、実に、悪魔的なにおいがする。

<出典メモ> 
ウィキペディア「60年安保」「岸信介」「正力松太郎」「児玉誉士夫
・有馬哲夫『原発・正力・CIA―機密文書で読む昭和裏面史』(新潮新書)。
・「50〜60年代にCIAが自民党に数百万ドル資金援助」 New York Times, 10/9/1994   (http://sun.ap.teacup.com/souun/138.html
・ティム・ワイナー『CIA秘録』上巻
佐藤栄佐久『知事抹殺』

一夜明けて