中国大陸でかき集めた三千人の人々を「マルタ」と呼んで人体実験をし、殺害した石井四郎731部隊。米国はその実験の成果を渡すことと引き換えに、石井らの戦争責任追及をしなかった。戦後、731部隊に配属された医学者たちのほとんど帰国してエリートの道を進んで行き、その何名かは緑十字社をつくり、のちに血液製剤によるエイズ感染事件を引き起こした。
だが、良心の呵責の堪えかねて医学者の道を捨てた一人の医師がいた。秋元寿恵夫氏である。
「人の生命と常に対決させられているという特殊な立場にある医師、もしくは医学研究者が、彼らのみに許されているもろもろの特権になずみ過ぎ、その専門家気質がヒューマニズムの一線を踏み越えた場合には、このような事件はいつまたどこでも起こりうるのだ。」秋元寿恵夫