苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

天皇はemperorなのか

 世間では元号のことで大騒ぎをしているので、天皇の訳語に関して前から気になっていることを少々メモしてみる。

 英語では天皇をemperorと訳してきたが、これは誤訳ではなかろうか。kingのkinは血族、血縁を表すので、国王と国民の血族的なつながりを示している。これに対して、英語でemperorと言って、真っ先に思い浮かぶのは当然ローマ皇帝であり、ローマ帝国地中海世界のもろもろの民族を束ねたものであるから、emperorと帝国の国民の間に血族的なつながりなどない。emperorは軍事力と政治力で帝国内の諸民族を束ねた存在である。ところが、戦前・戦中、天皇は国民を「赤子(せきし)」と呼んで、天皇と国民の関係は親子関係なぞらえられて強調されていた。というわけで、天皇はkingであって、emperorではない。やはり、天皇をemperorと翻訳したのは、誤訳であって、kingと訳すべきである。

 なぜこのような誤訳が生じてしまったのか。おそらく「天皇」の「皇」という字に引っ張られてしまったのであろう。飛鳥時代までのように「大王(おほきみ)」と呼ばれていたならば、そうした誤りはなかったであろう。なぜ、大王という呼称が天皇という呼称になったのだろうか。ある人の主張によると、天皇という呼称は、中国の皇帝と対等である意識をもつゆえにつけられたのではないかということである。「倭王」では中国の皇帝の下に位置付けられてしまうから、「皇」の字を用いて天皇とされたのだろうとのこと。それが事実だとすると、ずいぶん昔から、この列島の住民は、中華帝国の一部ではないぞという意識を持つようになっていたのである。海を隔てていたということが大きいのであろう。

 そんなことから、王であるのに「天皇」という不適切なことばを用い、その「皇」の字に引っ張られて、emperorという天皇の実態にふさわしくない訳語が選ばれるという誤訳に陥ってしまったというわけ。しかしまあ今更直すわけにもゆかないわけである。