千歳―羽田の往復で読みました。
都会生活をしていた一人の女性が、田舎に住む男性との再婚を機に、思いがけず「長男の嫁」というむかしながらの世間の目のきびしい立場に置かれて、義父の介護をしていく、いわゆる介護小説です。私も22年間、山奥に住んでいたので、この「世間」というものな、どのくらいたいへんで、また、どのくらいたすかるかを少々知っているので、なるほどなあ、たいへんだなあ、と思いました。
また、今年還暦を迎えて、自分自身が認知症になるのかなあとか、どういう死に方をするのかなあなどと意識するようになったこともあり、参考になるところもありました。高齢者の多い教会に仕える牧師としても。
私は文体の好悪が激しい方なのですが、この作家の文体は前作『世界一ありふれた答え』でもそうでしたが、けれんみがなくて好ましいのです。
介護小説というと重苦しいテーマです。作者は、その過酷な現実、醜い自己の内面、世間の冷たさなど、誠実に描いています。それでありながら、風通しのよさ、時に現れる慰めに満ちた光景に胸打たれました。
ご一読をお薦めします。