「苫小牧は秋がいいんです。」
春にこの地に赴任してから、何度このフレーズを聞かされたことだろう。3月末から4月一杯、緑も見えてこない町を一日中冷たい風が吹きまくっていた。5月になると緑は見え始めたものの、からりと晴れる日は少なかった。朝は晴れていても午後には曇ってしまうのである。6月と7月は霧の季節だった。8月になって夏だなと感じたのが二週間あったくらいだろうか。だが長野と東京に住む息子たちが訪ねてきてくれたときは、不思議なように好天に恵まれた。
そして、9月にはいってここ二三日秋が来た。あれほどしきりに聞こえていたウミネコの声がすっかり静かになって、ナナカマドが色づき始めて、吹く風は心地よい。海からほど近いこのあたりの住宅街でも、白樺の木が書斎の窓から見える。その葉もそろそろ黄色く色づこうとする気配である。ゆっくりとうつろい行くという苫小牧の秋を味わってゆきたい。