苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

人間の尊厳の根拠・・・相模原の事件にかんして

「神は人をご自身のかたちとして創造された。神のかたちとして彼を創造し、男と女とに彼らを創造された。」創世記1章27節


1.事件

 相模原市の障害者施設で、「愛国心」に燃える男が、19人を殺害し、26人に怪我を負わせるという事件があった。彼は「障害者のせいで税金がかかる」と発言し、衆議院議長大島理森自民党)に宛てた手紙には、自分は愛国のために、障害者470名「抹殺」できること、今回の「作戦」では2つの施設の260名を殺害するつもりであり、心神喪失による犯行として服役最長2年間にしてほしいこと、また、5億円の金銭的支援を約束して欲しい旨を、安倍晋三総理に相談して欲しいと結んでいる。

 その手紙は、自筆写真付きで毎日新聞に掲載された。以下の通り。
http://mainichi.jp/articles/20160727/k00/00m/040/020000c

 衆議院議長大島理森

 この手紙を手にとって頂き本当にありがとうございます。
 私は障害者総勢470名を抹殺することができます。
 常軌を逸する発言であることは重々理解しております。しかし、保護者の疲れきった表情、施設で働いている職員の生気の欠けた瞳、日本国と世界の為(ため)と思い、居ても立っても居られずに本日行動に移した次第であります。
 理由は世界経済の活性化、本格的な第三次世界大戦を未然に防ぐことができるかもしれないと考えたからです。
 私の目標は重複障害者の方が家庭内での生活、及び社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です。
 重複障害者に対する命のあり方は未(いま)だに答えが見つかっていない所だと考えました。障害者は不幸を作ることしかできません。
 今こそ革命を行い、全人類の為に必要不可欠である辛(つら)い決断をする時だと考えます。日本国が大きな第一歩を踏み出すのです。
 世界を担う大島理森様のお力で世界をより良い方向に進めて頂けないでしょうか。是非、安倍晋三様のお耳に伝えて頂ければと思います。
 私が人類の為にできることを真剣に考えた答えでございます。
 衆議院議長大島理森様、どうか愛する日本国、全人類の為にお力添え頂けないでしょうか。何卒よろしくお願い致します。

    文責 植松 聖

 作戦内容

 職員の少ない夜勤に決行致します。
 重複障害者が多く在籍している2つの園を標的とします。
 見守り職員は結束バンドで見動き、外部との連絡をとれなくします。
 職員は絶体に傷つけず、速やかに作戦を実行します。
 2つの園260名を抹殺した後は自首します。
 作戦を実行するに私からはいくつかのご要望がございます。
 逮捕後の監禁は最長で2年までとし、その後は自由な人生を送らせて下さい。心神喪失による無罪。
 新しい名前(伊黒崇)本籍、運転免許証等の生活に必要な書類。
 美容整形による一般社会への擬態。
 金銭的支援5億円。
 これらを確約して頂ければと考えております。
 ご決断頂ければ、いつでも作戦を実行致します。
 日本国と世界平和の為に、何卒(なにとぞ)よろしくお願い致します。
 想像を絶する激務の中大変恐縮ではございますが、安倍晋三様にご相談頂けることを切に願っております。

植松聖

 (住所、電話番号=略)

 かながわ共同会職員


2.政治と弱者切捨ての風潮

 この事件は、単に一人の異常者の異常な行動として片付けられない。これは明らかに現政権がもたらした弱者切り捨ての風潮を背景として生じたことだからである。植松容疑者は安倍首相に対して敬意と親近感を表明している。Literaという書評サイトで知ったのだが、この事件に関して、ネット上、ツイッター上には、次のような声が広がっている。

〈そうやってみんなすぐ植松容疑者が異常だと言い張るけど行動がよくなかっただけで言ってることは正論だと思う〉
〈植松の言ってることはこれからの日本を考えるとあながち間違ってはいない〉
〈穀潰しして連中に使われる予定だった税金を節約して、国の役にたったよ彼は。弱いものって誰? 精神障害者はどんなに暴力や暴言はいても罪に問われない無敵の強者だよ?〉

 しかも、これは複数のアカウントによる発言だが、彼らは〈自民と公明が勝ってるのみるとマジでせいせいする〉〈安倍総理を応援してる自分がいる〉〈【拡散】安倍晋三に総理大臣を辞めて欲しくないと思う人はRT〉などともツイートしている。こうした障がい者ヘイトを垂れ流している連中の多くが自民党支持者、あるいは安倍政権が醸成させている空気を身にまとっていることは、もはや疑う余地がない事実なのだ。
http://lite-ra.com/2016/07/post-2459_2.html

 さらに、このサイトで紹介されている「愛国を考えるブログ―自民党ネットサポータークラブ会員として愛国という視点から自らの意見を論理的に述べるブログ」の中には、「重度障害者を死なせることは決して悪いことではない」という文章がある。
http://sinnnoaikokuhosyu.seesaa.net/article/440452137.html

(前略)植松は「障害者なんていなくなってしまえ」と供述しているという。あまりにも卑劣な犯行でさっさと死刑にするのが一番であるが、植松の言葉自体には実は聞く価値のある部分もある。それは「障害者は邪魔である」という観点だ。この施設には知的障害のある人たちがたくさんいたのだ。

 考えてみてほしい。知的障害者を生かしていて何の得があるか?まともな仕事もできない、そもそも自分だけで生活することができない。もちろん愛国者であるはずがない。日本が普通の国になったとしても敵と戦うことができるわけがない。せいぜい自爆テロ要員としてしか使えないのではないだろうか?つまり平時においては金食い虫である。

 この施設では149人の障害者に対し、職員が164人もいる。これではいくら職員を薄給でき使わせたところで採算が取れるはずもない。そんな状況では国民の税金が無駄に使われるのがオチである。無駄な福祉費を使わなくて済ませることが国家に対する重大な貢献となる。だからこそ植松が言うように障害者はいなくなるべきなのである。

 
 このような異常な言説を述べているブログ筆者が属するのは、 麻生太郎谷垣禎一安倍晋三を最高顧問とし、小池百合子を相談役とする「自民党ネットサポーターズクラブ」である。このネットサポーターズクラブは、インターネット上・マスメディア上の現政権にとって不都合な言説は徹底的にたたき、世論を現政権に有利な方向に誘導するために運動をしているボランティア団体であり、会員1万人とされている。
ウィキペディアには、下のようにある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E6%B0%91%E5%85%9A%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B5%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%96
また、こちらも参照。
http://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/24172abb0f4503a72a3238afe593806d
 
 植松容疑者も、この自民党ネットサポーターズクラブ会員であるブロガーと同じ弱者切捨て思想の持ち主である。こんな連中の発言について自民党政府は責任がないとは言えないと思う。なぜなら、麻生副総理がこの手の発言を何度もしているが、安倍首相は彼を大臣辞職も議員辞職もさせないで容認しているのだから。麻生氏は終末期医療にふれて「さっさと死ねるようにしてもらうとか、考えないといけない。」延命治療について「そのお金が政府の金でやってもらっているなんて思うと、なおさら寝覚めが悪い。」、「たらたら飲んで、食べて、何もしない人(=患者)の分の金(=医療費)を何で私が払うんだ。」と発言し、最近では「90歳になっていつまで生きているつもりだ」と言っている。上のブログの筆者は、自民党の指導者の教えに倣ったのであり、相模原の植松容疑者も指導者の教えに忠実に行動してしまったのである。
 自民党政府はこのことを自覚しているのだろうか?きっとしている。していても、けっして口にしないのだろう。この点について質問する気概のある新聞記者、テレビ記者がいないのは、情けない限りである。読売新聞によれば、安倍首相は「多くの方々が大変な不安を感じている。事件を徹底的に究明し、再発防止、安全確保に全力を尽くしていかなければならない」と言ったそうだが、まるで他人事のような口ぶりである。再発防止のためには、安倍政権の弱者切捨て政策、格差拡大政策、福祉切捨て政策、新自由主義政策が決定的にまちがっていたことをはっきりと認め、麻生太郎氏を罷免すべきであり、ネット上にヘイトスピーチを繰り返す自民党ネットサポーターズクラブを解散すべきなのだ。

3. 人間の尊厳の根拠

 では、聖書は人間の尊厳について、なんと教えているか?人間の尊厳は、万物の創造主である神が、ご自身の似姿として人間を造られたという事実に根拠がある。何ができるとかできないとか、カネがかせげるかせげないとか、健康であるか病気であるかとか、兵隊になれるかなれないかとか、そういうこと以前に、あらゆる人間が神の似姿として造られたゆえに、尊いのである。私たちは、効率主義、功利主義、拝金主義、新自由主義経済、国家主義という偶像崇拝に洗脳されてはいけない。
 障害をもって生まれた子の父親神戸金史さんという方が書かれた詩を紹介しておきたい。

私は、思うのです。
長男が、もし障害をもっていなければ。
あなたはもっと、普通の生活を送れていたかもしれないと。

私は、考えてしまうのです。
長男が、もし障害をもっていなければ。
私たちはもっと楽に暮らしていけたかもしれないと。

何度も夢を見ました。

「お父さん、朝だよ、起きてよ」
長男が私を揺り起こしに来るのです。
「ほら、障害なんてなかったろ。心配しすぎなんだよ」
夢の中で、私は妻に話しかけます。

そして目が覚めると、
いつもの通りの朝なのです。
言葉のしゃべれない長男が、騒いでいます。
何と言っているのか、私には分かりません。

ああ。
またこんな夢を見てしまった。
ああ。
ごめんね。

幼い次男は、「お兄ちゃんはしゃべれないんだよ」と言います。
いずれ「お前の兄ちゃんは馬鹿だ」と言われ、泣くんだろう。
想像すると、
私は朝食が喉を通らなくなります。

そんな朝を何度も過ごして、
突然気が付いたのです。

弟よ、お前は人にいじめられるかもしれないが、
人をいじめる人にはならないだろう。

生まれた時から、障害のある兄ちゃんがいた。
お前の人格は、
この兄ちゃんがいた環境で形作られたのだ。
お前は優しい、いい男に育つだろう。

それから、私ははたと気付いたのです。

あなたが生まれたことで、
私たち夫婦は悩み考え、
それまでとは違う人生を生きてきた。

親である私たちでさえ、
あなたが生まれなかったら、
今の私たちではないのだね。

ああ、息子よ。

誰もが、健常で生きることはできない。
誰かが、障害を持って生きていかなければならない。

なぜ、今まで気づかなかったのだろう。

私の周りにだって、
生まれる前に息絶えた子が、いたはずだ。
生まれた時から重い障害のある子が、いたはずだ。

交通事故に遭って、車いすで暮らす小学生が、
雷に遭って、寝たきりになった中学生が、
おかしなワクチン注射を受け、普通に暮らせなくなった高校生が、
嘱望されていたのに突然の病に倒れた大人が、
実は私の周りには、いたはずだ。

私は、運よく生きてきただけだった。
それは、誰かが背負ってくれたからだったのだ。

息子よ。
君は、弟の代わりに、
同級生の代わりに、
私の代わりに、
障害を持って生まれてきた。

老いて寝たきりになる人は、たくさんいる。
事故で、唐突に人生を終わる人もいる。
人生の最後は誰も動けなくなる。

誰もが、次第に障害を負いながら
生きていくのだね。

息子よ。
あなたが指し示していたのは、
私自身のことだった。

息子よ。
そのままで、いい。
それで、うちの子。
それが、うちの子。

あなたが生まれてきてくれてよかった。
私はそう思っている。

父より