苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

2月11日に寄せて

エスは言われた。「カイザルのものはカイザルに返しなさい。そして神のものは神に返しなさい。」(マルコ12章17節)


 神はカイザルに、剣(警察権)によって社会秩序を維持し、徴税と富の再分配によって経済格差を是正するという務めを託されました。つまり、国家の任務は世俗的・外的領域に限られるのです(ローマ13章1〜7節)。しかし、ローマ帝国が皇帝崇拝を強要した古代から現代にいたるまで、権力者はえてして己が分を越えて国民精神の支配・統合を企てるという過ちを繰り返してきました。カイザルが「神のもの」までも求めたのです。主イエスはそういう事態に備えて、「カイザルのものはカイザルに返しなさい。そして神のものは神に返しなさい。」と私たちにお命じになっています。

 ヨーロッパで政教分離原則が確立したのは、ヨーロッパ最後の宗教戦争と呼ばれる30年戦争を終結させたウェストファリア条約(1648年)であるとされます。従来、国家権力と教会が近しい関係をもっていたので、国と国の権益をめぐる戦争に、宗教を利用した自国絶対視が働いて悲惨な結果をもたらしたことに対する反省でした。こうして近代国家において政教分離は必須条件となりました。

 日本の場合、天皇家の宗教は聖徳太子以来江戸時代の終わりまで千数百年にわたって、神道的習俗をも併せ持つようなものでしたが、基本的には仏教でした。古くは東大寺の建立は聖武天皇によるものですし、上野の寛永時の管主は江戸時代まで天皇の皇子が務めていました。しかし「キリスト教国」である欧米列強に対抗するために、伊藤博文は、神社神道皇室神道・江戸期の国学の説を利用して天皇を中心とした国家神道を作って、国民精神の統合を図ることにしました。この時代、廃仏毀釈運動が行われました。伊藤は「キリスト教国」の華々しさに目がくらんで、30年戦争の結末としてのウェストファリア条約が定めた「政教分離」の意義・教訓を理解していなかったのでしょう。その後の富国強兵政策は、国家神道の経典である教育勅語に基づく国民教育に裏打ちされて推進されました。そして、わが国は日清・日露・第一次大戦と戦争に明け暮れ、最後には、満州事変からポツダム宣言受諾までの15年戦争によって、国家神道体制は瓦解しました。政教一致体制は自国絶対視の妄信を醸成し、多くの悲惨な戦争の果てに破綻するという近世ヨーロッパの歴史の繰り返しでした。政教分離原則を確立させた日本国憲法第20条は、いわばわが国の歴史におけるウェストファリア条約と見なすことができましょう。

 主にある兄弟姉妹の多くは、2月11日を「信教の自由を守る日」と意識して祈り過ごされることと思います。この日は、天照大神の子孫とされる神武天皇が即位した日であるという国家神道の建国神話に基づいて定められた「紀元節」を、「建国記念の日」と改名して1966年に復活させたものです。国家神道による国民精神の統合を理想と考える人々が、政府に働きかけて復活させたのです。現在の安倍政権は19人の閣僚のうち16名が神道政治連盟の会員なのだそうです。私たちは、この国がまたも政教分離原則を踏みにじって暴走し滅亡しないために、為政者が政教分離原則の意義を理解し、厳格にこれを守るように、熱心に祈りたいと思います。(日本同盟基督教団「世の光」巻頭言2015年2月号)