苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

ほんとうはこういう文章でした:日本海側の原発事故の危険


 名古屋の友人が写真を撮って送ってくれた。今朝、朝日新聞声の欄に、筆者の投稿記事が載った。だが、題名はあちらで許可なく書き換られ、内容も半分は骨抜きにされたので、本来伝えたかった文章をここに掲載しておく。特に題名と第三段落の違いに注意していただきたい。

原子力行政に理性の回復を
  7月18日夜、大飯原発4号機が起動され、19日志賀原発大飯原発断層再調査を原子力安全・保安院が指示した。大飯原発の下に活断層がある可能性が高いと専門家たちの指摘が相次いだからである。
 大飯原発の下の断層がもし動けば、原発の構造物自体が崩壊し、福井県はおろか関西・中部一円の国土は放射能で汚染され失われてしまう。
 その汚染の程度は、福島の比ではない。なぜなら、若狭湾では一年間の8割は日本海側から内陸に向けて「比良おろし」と呼ばれる強い風が吹いているからである。福島のばあい、原発から放出された放射能の7〜8割は太平洋上空へと拡散し、2〜3割が地上に落ちたが、若狭湾のばあい8割が内陸部に降り注ぐことになる。
 理性で考えれば、原発直下に活断層があり違法設置の可能性があるならば、まずその危険性を第三者機関に調査させて安全であることを確認し、次に、原発を稼動するということであろう。原発稼動しましたが、安全かどうかわかりませんので、これから電力会社に確認させますというのでは、原子力安全・保安院などだれも信用はしない。実際には、地層調査の結果、活断層であることが判明すれば稼動できないから、先に稼動してしまったのである。原子力行政に理性の回復を望む。

<記述の根拠>
1.「福島のばあい、原発から放出された放射能の7〜8割は太平洋上空へと拡散し」
東京工業大学放射性物質拡散の追跡 −福島第一原子力発電所事故由来の放射性物質の行方−
http://www.hyoka.koho.titech.ac.jp/eprd/recently/research/research.php?id=285

2 「比良おろし」
http://www.pref.shiga.jp/biwako/koai/handbook/201203/P154-155.pdf

 題名についていえば、原子力行政はいまや理性を喪失したありさまであると言いたかったわけである。名古屋の朝日は紙面構成上の都合でこのように題名を変えたのだろう。<安全を確認してから稼動する>という順序は、カーター米国防副長官でさえ<オスプレイの安全を確認してから動かす>と釈明しているように子どもでもわかる合理的順序だが、今、日本政府は原発については<稼動してから安全を確認すればよい>としている。筋が通らない。しかも、確認するのは第三者機関でなくて電力会社なのである。電力会社が「あれは活断層でした」と報告するわけがない。まったく茶番である。
 「原子力安全神話」という迷信にしがみついてきた原子力行政が理性を喪失しているというのは、なにも今に始まったことではないが、格別、大飯原発再稼動についてはそれが顕在化してしまった。免震重要棟もベント装置も避難路もまだないけれど、数年後には着工しますという計画だけ出したら安全だと見なして再稼動をOKしたのと同じことである。順番が逆なのだ。私は野田さんがカーターさんに「オスプレイの安全確認は、飛ばしてからやればいいですよ。私が口先だけ責任をもってお勧めします。」と言い出すのではないかとヒヤヒヤしている。実際、この人、言いかねないなあ。

 それはさておき、内容の半分が骨抜きにされた件である。筆者は若狭湾原発事故が起きると、太平洋側で起きた原発事故と比較して、被害の規模が桁違いになる危険性を述べたかったのである。それで福島の風向きと、若狭湾の風向きを書いた。
 ところが、編集部は「比良おろしというものは、ほとんど知られていないから」というので、「8割」と「比良おろし」は取り下げた。それで「では、『若狭湾から内陸部にむかってしばしば吹いている強い風』と変えてもよい」と提案したのだが、それでも入れられなかった。そうして編集部は「風向きによっては海側ではなく内陸部に運ばれることもありうる」と、まぬけな文に差し替えて来た。そんなことは書くまでもない当たり前のことではないか。
 そこで私は、最大限妥協して、「若狭湾の風向きからして、放射能の多くは内陸部に運ばれるであろう。」という提案をしなおした。これに対して編集部はネガティブな応答はしてこなかったので、これで通ったものと思っていたのである。ところが、編集部はそれさえも無視して、「風向きによっては海側ではなく内陸部に運ばれることもありうる」というマヌケな文のままの掲載してしまったことを、紙面を見てはじめて知った次第である。これでは、太平洋に面した福島第一原発と比較して、日本海若狭湾原発事故のほうがはるかに深刻だというこの段落の趣旨がまったく伝わらない。
 大雑把に言って、日本は天候が西から東に移っていくのをみればわかるように西から東へと空気は流れている。地球の自転による偏西風のせいである。そのおかげで福島第一原発の放出した放射能の大半は太平洋のほうに流れたわけだ。だから、日本海側にある原子炉のばあいには、若狭湾であれ能登半島であれ柏崎であれ、日本の内陸をはなはだしく汚染してしまうことはあきらかなことなのだ。

 友人から、「君らしくない歯切れのよくない文章だなと思った」と指摘された。まあ、上のような事情で掲載されないよりはましかという程度の間抜けな文章が紙上に載ってしまったというわけである。筆者は物書きとしては失うほどの名誉もないので、そんなことは気にしないけれど、読者のみなさんに伝えたい趣旨も伝わらない文章に改変されてしまったのは、いかにも残念である。
 少なくとも当ブログの読者には、日本海側の原発事故は、太平洋側の原発事故よりもはるかに危険性が高いことをよく認識していただきたいと思う。

追記7月24日>
 題名変更は名古屋方面の朝日新聞だそうで、東京朝日は「原子力行政に理性を回復せよ」という題だったことを図書館で知りました。このほうが元の原稿に近いですね。