マタイ福音書1:1−17
2012年7月15日 小海主日礼拝
本日から、マタイ福音書を少しずつ味わってまいります。今回の連続講解にあたって特に意識して行きたいのは、ただ聖書の知識を得ることではなくて、聖書を通して父と子と聖霊の神様がどのようなお方であるかを知ることです。真の神様を知り、このお方を賛美し、そして神様に従ってゆく、このことを心がけたい。
さて、新約聖書を読もうとして、日本人なら誰もが最初に面食らうのは、この巻頭の「イエス・キリストの系図」でしょう。ところが、韓国の人たちはさほど驚かないでしょう。しかし、ユダヤ人にとっては、メシヤが、アブラハムの子孫のユダ族のダビデの家系から出ることは常識でしたから、そのことがここで確認されています。
神様は、こうした系図をもって私たちに何かを語ろうとしていらっしゃいます。それを読み取るには、その特徴に注目することです。イエス様の系図には、いくつかの特徴がありますので、その特徴に注目して説き明かして参ります。
1 表題
第一の特徴は、「1:1 アブラハムの子孫、ダビデの子孫、イエス・キリストの系図。」という表題と、第二の特徴は17節に記されるように、三つの時代に十四代ずつに区分されていることです。「1:17 それで、アブラハムからダビデまでの代が全部で十四代、ダビデからバビロン移住までが十四代、バビロン移住からキリストまでが十四代になる。」この二つを総合して説明しましょう。
(1)アブラハムからダビデまで14代
アブラハムとは、イスラエル民族の始祖にあたる人物であり、およそ紀元前2000年にメソポタミアのウルに生まれました。神様は、アブラハムに命令と約束をおあたえになりました。命令とは主に信頼してカナンの地に行きなさいということです。その約束とは、
第一にアブラハムの子孫は星の数のようにたくさんになるということ。
第二にアブラハムの子孫は神の約束の地を相続するようになるということ。
第三に世界中のあらゆる民族は祝福を受けるということでした。
アブラハム契約と呼ばれる約束は、紀元前1000年ころ部分的に歴史の中に成就することになりました。アブラハムの子孫は400年間エジプトに移住して奴隷として住みましたが、モーセによってエジプトの地から解放されて、約束の地カナンに戻ってきて、紀元前1000年ころにこの地に王国を築いたのでした。ダビデ・ソロモン王朝と呼ばれます。<アブラハムの子孫はおびただしくふえ>て、<約束の地カナンを相続した>のです。
しかし、この時点では、神の祝福はイスラエル民族のなかにとどめられていて<世界中のあらゆる民族がアブラハムによって祝福を受ける>という約束は成就していませんでした。
(2)ダビデからバビロン移住
紀元前1000年ころ、神様は、ダビデ王に対してもう一つの約束をお与えになりました。これをダビデ契約といいます。その内容は、<ダビデから出る子孫は、王国を確立させ、神の家を建てる>という約束でした。
この約束はダビデの子ソロモンにおいて、部分的に成就しました。ソロモンの栄華と呼ばれるようにイスラエルはこの時代非常に栄えました。そして、ソロモンはエルサレムに神の家つまり神殿を建設したのでした。
けれども、ソロモンの死後王国は南北に分裂してしまいます。北王国、南王国はそれぞれに王たちが登場して王国時代を築いてゆきます。けれども、北イスラエル王国の偶像崇拝と罪ははなはだしくて、紀元前722年には早々と北王国がアッシリヤ帝国亡ぼされてしまいます。
一方、たまに善い王さまも出た南ユダ王国は長生きしたのですが、結局、紀元前586年にはバビロンによって滅ぼされて都エルサレムと神殿は破壊されてしまいました。その結果、おもだった人々は、バビロンに捕虜とされて連れて行かれてしまいます。世に言うバビロン捕囚です。バビロン移住のあと、神殿再建が許される時期はありましたが、かつての栄光を取り戻すことは決してありませんでした。
このように紀元前2000年にアブラハムに与えられた約束、紀元前1000年のダビデに与えられた約束は、イスラエルの歴史のなかで部分的には成就しました。しかし、結局は不完全なかたちでの成就にとどまったのです。たしかに、子どもが一人もいなかったアブラハムの子孫は星の数ほどにふえてイスラエルという一つの民族をなすまでにはなりました。また、神様がおっしゃったとおり、イスラエルの民はカナンの地を相続し王国が築かれました。また神様が、ダビデにおっしゃったとおり、ダビデの子孫ソロモンは神殿を築きました。しかし、やがて王国は滅び、神殿は滅ぼされ、民はバビロンへ強制移住させられてイスラエルの民は相続地を失ってしまいました。また、世界中の民族が、アブラハムによって祝福を受けるということもありませんでした。
このアブラハムへの約束とダビデへの約束は、イエス・キリストにあって成就することになるということを、この系図は告げているのです。今日、私たちはイエス様によって、このアブラハムとダビデへの約束が成就しているかを知っています。 第一にアブラハムの子孫が星の数のようになるという約束は、単にイスラエル民族だけのことではなく、民族を超えてともにイエス・キリストを信じる者たちが世界中に増えていることによって成就しました。世界中のクリスチャンたちは、アブラハムを信仰の父と仰いでいます。
第二にアブラハムの子孫が約束の地を相続するという約束についてはどうでしょうか。ローマ書にはアブラハムへの約束は「世界の相続人となるという約束」だと言われています。クリスチャンたちは、今日それぞれが置かれた持ち場立場、職業や学業をとおして、世の光・地の塩としての神様の栄光を現す使命を果たして生きているなら、すでに世界の相続人となっているのです。最終的には新しい天と新しい地という、完成した御国の相続人となるのです。
第三に世界のあらゆる民族がアブラハムによって祝福を受けるという約束は、まさにアブラハムの家系に生まれたイエス・キリストによって成就しました。キリストの福音は、ユダヤ人の中にとどまらず、世界中のあらゆる民族国語に宣べ伝えられてきましたし、今も世界中のあらゆる民族に伝えられ祝福をもたらしています。
そして、第四にダビデの子孫が神の家を建てるという約束もまた、イエス・キリストにあって成就しました。イエス様は、「その神殿を壊して御覧なさい。わたしはそれを三日で立て直そう」とおっしゃいました。再建されたエルサレム神殿はローマ帝国軍によって破壊されましたが、キリストのからだとしての神殿、つまり教会は世界中に広がってきました。「あなたがたは神の神殿であり、神の御霊があなたがたに宿っておられることを知らないのですか。」(1コリント3:16)
(3)神はご自分が結んだ契約に対してどこまでも真実なお方
神様が4000年前アブラハムに、そして3000年前ダビデに対して結ばれた契約が成就してきたことを見て、わたしたちは、神様がどのようなお方であると知るでしょうか。それは、神はご自分の与えた契約に、どこまでも真実なお方であるということです。神様は、御自分の選んだ者をお忘れにならず、与えた約束をお忘れにならず、かならず成就させるのです。契約を与えられたアブラハムとその子孫は、しばしばこれを捨ててしまおうとする不真実さをもっているのですが、それでも、神様は真実でいらっしゃいます。
私たちが不真実でも、神は常に真実です。神には御自分を否むことがおできにならないからです。人はわがままを言い、理屈をつけ、欲にかられて、神の契約を捨てようとしました。しかし、神はどこまでも真実を守られ、時に試練を潜らせることがあっても、ついには、ご自分の選んだ民を救ってくださいます。
1cor:10:13「あなたがたの会った試練はみな人の知らないようなものではありません。神は真実な方ですから、あなたがたを耐えることのできないような試練に会わせるようなことはなさいません。むしろ、耐えることのできるように、試練とともに、脱出の道も備えてくださいます。」
2 4人の女性の名
ところで、キリストの系図に記されている人々の名を見ていくと、ほとんどが男なのですが、その中に特筆されている5人の女性がいることに気がつきます。タマル(3節)、ラハブ(5節)、ルツ(5節)、ウリヤの妻(6節)、そしてイエス様を産んだマリヤ(16節)です。
系図のなかに特筆される名前というとどのような名であると普通考えるでしょうか?先祖のことというのは、普通なにか立派そうなことをしたことを誇って記すのが普通です。わざわざ、何代前は泥棒でしたなどと書きとめる人はいないでしょう。
ところが、イエス・キリストの系図にわざわざ名を挙げられている女性たちのは、不思議なことにどれもこれも、家系としては隠しておきたいような女性たちなのです。「1:3 ユダに、タマルによってパレスとザラが生まれ、」とありますが、口にすることもはばかられるような経緯があって、彼女は舅のユダからパレスとザラを産みました。しかし、それはユダ族からダビデが生まれ、そこからキリストが来るためでした。
「1:5aサルモンに、ラハブによってボアズが生まれ、」二人目の名はラハブです。ラハブのことは憶えているかたが多いでしょう。ラハブは、聖絶されることになっていたカナン人の女性で、しかも、遊女でした。けれども、ヨシュアが派遣した斥候をかばったことで特別に助けてもらったのでした。
「1:5bボアズに、ルツによってオベデが生まれ、オベデにエッサイが生まれ、」イスラエルで日照りが続いたので、ナオミと夫は隣国モアブに移住しました。そこで息子の一人に嫁としてモアブ人ルツを迎えたのです。イスラエルは血統とか純潔を誇るのですが、メシヤの家系にはラハブにせよ、ルツにせよ異邦人の血がはいっているのです。
「1:6b ダビデに、ウリヤの妻によってソロモンが生まれ」そして、最後にきわめつけはこれです。この一節には性犯罪のにおいがします。「ウリヤの妻によって」という書き方がなんとも異常です。ダビデは自分の忠臣ウリヤの妻をかどわかして我が物とし、家臣ウリヤをはかりごとにかけて戦地で死に至らしめました。このひどい行いに対して神は怒りを発せられ、英雄ダビデの後半生は悲惨なものとなってしまいます。ダビデはウリヤの死後、ウリヤの妻によってソロモンを産んだのでした。
以上のように、アブラハム、ダビデの名を付けられたイエス・キリストの系図は、決してうるわしいものとしては書かれていません。この系図を見ていくと、つくづく人間の歴史は罪にけがれているのだなあという思いがします。しかし、こうした罪の泥沼のような系図の最後に次のように記されています。
「1:16 ヤコブにマリヤの夫ヨセフが生まれた。キリストと呼ばれるイエスはこのマリヤからお生まれになった。」
真っ黒な泥沼の中から咲いた、一輪の純白の蓮の花。イエス・キリストの誕生はまさに奇跡です。
なぜ、聖書は、純潔を尊ぶユダヤ人相手に、わざわざこんな言わずもがな、書かずもがなと思われる、メシヤの家系の恥部をさらすようなことを書くのでしょうか。
まず異邦人の名が記されているのは、メシヤ、キリストはイスラエル民族のための救い主ではなく、世界中のあらゆる民族国語の救い主としてこられたことを示すためです。たしかにキリストにある救いはまず、ユダヤ民族のうちに明らかにされました。しかし、キリストはユダヤ人だけでなく、世界中の人々のための救い主です。あらゆる民族国語の人々の救いのために、この世の来られたのです。
また、キリストの系図のなかに人間の罪を思い出させるような名前が記されているのは、キリストが正しい人を招くためではなく、神の前に罪ある人を招いて救うために来られた救い主であることを示すためです。イエスさまは「正しい人間」には用がありません。「私は、心の思いと、ことばと、行いにおいて神様の前で恥ずべきことがあります。主よ、わたしをあわれんでください」と祈る人にとっては、キリストは救い主となってくださいます。
「『キリスト・イエスは、罪人を救うためにこの世に来られた』ということばはまことであり、そのまま受け入れるに値するものです。私はその罪人のかしらです。」1テモテ1:15
結び
私たちは今日、この系図から神様がどのようなお方であると学んだでしょうか?
神は真実なお方であられ、その約束をかならず守ってくださるということを知りました。
罪のない神の御子キリストは罪人を救うために来てくださいました。神様はあわれみに満ちたお方です。神様は、真実な方であり、かつ、哀れみに満ちたお方です。
主を賛美しましょう。
<注>必要があって、英語で概要を載せておきます。
Mt1:1−17
The genealogy of Jesus Christ
Intro. From today we begin to read the Gospel by St. Matthew. We want to know how wonderful God is. There are some features in the genealogy.
1 The Title
The first feature is the title” the genealogy of Jesus Christ the son of David, the son of Abraham”.
2000BC God selected Abraham and gave a covenant that promised three points.
The first is to multiply his descendants like stars in the sky.
The second is that his descendants will inherit the promise land.
The third is that all the peoples in the world will be blessed by Abraham.
1000BC God selected David and gave a covenant that promised the fourth point.
The descendant of David will build the shrine for God.
Abraham’s descendants became the people of Israel and they inherited the promised land Canaan and Solomon, David’s son built the shrine. Indeed in the history the covenants were fulfilled, but it was partial and not permanent.
Jesus Christ fulfills the covenants of Abraham and David as their descendant. Those who believe Jesus in the world are descendants of Abraham, the father of the faith and they will inherit the heaven and the church in the new covenant is the shrine promised to David.” Don’t you know that you yourselves are God’s temple and that God’s Spirit lives in you?”(1Cor3:16)
☆God is absolutely faithful even if we are not faithful. “No temptation has seized you except what is common to man. And God is faithful; he will not let you be tempted beyond what you can bear. But when you are tempted, he will also provide a way out so that you can stand up under it.”1Cor10:13
2 The names of four women
There are four women’s names in the genealogy Tamar, Rahab, Ruth and Uriah’s wife. They are not famous but disgraceful. Tamar got her sons by a shameful way, Rahab was a harlot Cananite, Ruth was a gentile. And David robbed Uriah’s wife and killed him. The genealogy is like a black bog with sins and crimes. And the end of it is” and Jacob the father of Joseph, the husband of Mary, of whom was born Jesus, who is called Christ.” The birth of Christ is a miracle like a flower of innocent white lotus in a bog!
Why God wrote down these names in Christ’s genealogy? Because Jesus Christ is the savior of all peoples and sinners.
☆God is faithful and merciful to us. Praise the Lord!
“Here is a trustworthy saying that deserves full acceptance: Christ Jesus came into the world to save sinners—of whom I am the worst.” 1Tim1:15