苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

原発は最もハイコストでハイリスク

1.原発設置・発電のコスト

 大島堅一氏(立命館大学国際関係学部教授)の文章の要約。
http://www.videonews.com/on-demand/521530/001844.php

 原発の商用利用が始まった1970年以降に原発にかかったコストの実績値を計算すれば、電力会社にとっては「原発は一番安い」が、利用者にとっては「原発は一番高い」
 発電コストとしてよく電力会社が出す数値は、たとえば04年に電気事業者連合会が経産省の審議会に提出した資料では、1キロワット時あたり、水力(揚水発電を除く一般水力)は11.9円、石油10.7円、天然ガス6.2円、石炭5.7円、そして原子力は5.3円としている。これは、稼働率を80%に設定するなど、ある一定の条件を想定して計算した値だ。

 利用者の負担という観点で考える時に重要なのは、「見えないコスト」と「バックエンド費用」。
「見えないコスト」とは、国からの財政支出だ。技術開発費や立地対策費がエネルギー特別会計の中から支出されるが、電源別に集計されていない交付金もあり、知らない間に原子力にお金が出ている状態が作られている。1970年〜2007年の交付金の約7割が原子力に支出されており、ほとんど「原子力交付金」である。つまり、国の優遇策を受け、必要なコストは国、つまり国民の税金で負担してきた。それゆえに電力会社にとっては「原子力は安い」にすぎない。
 1970年〜2007年の約40年間について、実際に発電にかかったコストを、財政支出の国民負担についても合算すれば、1キロワット時あたりのコストは、原子力10.68円、火力9.90円、水力7.26円と、原子力はもっとも高い。

 もう一つの「バックエンド費用」とは、原子力特有の使用済み燃料の再処理費などのことで、これは燃料費など発電に必要な費用と共に、電気料金に算入されている。たとえば使用済み燃料の再処理に11兆円以上が掛けられているが、そこで得られるプルトニウムはウランで購入した場合の9000億円分でしかないなど、バックエンド費用には今の原子力政策が抱える不合理が多々あり、それをわれわれが知らされない。
〜〜〜〜〜以上、大島氏の文章要約〜〜〜〜〜

2.福島第一原発廃炉のコストは7兆4700億円
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/report/20110509/106467/?P=1

 「環境金融の動向を伝えるサイトFinance GreenWatch(FGW)によれば、廃炉コストは発電出力1kW当たり米国で1000ドル、英国で1750ドルとの民間の推計があるという。また、米国会計検査院(GAO)は破局的事故が起きた場合の損害を150億ドル、厳しい天候のもとではその10倍であると1986年に米議会に報告した(Financial Consequences of a Nuclear Power Plant Accident)。FGWはこれらを福島第一原発6基に当てはめれば、廃炉コストは米英基準で約4000億〜7000億円、GAOのダメージ計算に当てはめれば6基で7兆4700億円だとする。」

3.原発事故に伴うコスト

 福島原発の事故にともなって、農畜産物・漁業における被害は福島県内にとどまらず、すでに県外、遠く神奈川県にまで及んでいる。これからどこまで拡がるかわからない。セシウム半減期30年というから、60年たっても4分の1は土壌に残ってしまう。そして、日本製品メイド・イン・ジャパンの国際的信用の失墜がもたらした経済的損失はどれほどのものか私などには計算もできない。
 家を失い、職業を失い、ふるさとを失い、村という共同体を失い、健康を失った方たちへの補償は、お金ではすまない。さらに、残念なことだが放射能障害特有の症状を呈する方たちがたくさん出てくるにちがいない。チェルノブイリの経験からいえば、幼児の甲状腺ガンは事故から4年目から10年目にかけて発生し、そのあと成人のガンが出てくる。

 <追記2011年5月23日>さらに、今後、海洋に流してしまった莫大な汚染水はアリューシャン列島からアラスカ、日本海側にまで広がっていくから海外から補償を求める動きが出てくるであろう。
 また福島第一原発では汚染水を浄化して循環するシステムを導入することにし、その浄化をフランスのアレバ社に依頼したが、その汚染水の量は6万7000トンに上る。1トンあたりの費用が2億円というから、13兆4千億円に上る。http://d.hatena.ne.jp/koumichristchurch/20110523


 
結論
 筆者は、原発はリスクは高いけれど、コストは安いのだろうと思っていた。ところが、よく調べると、原発はリスクばかりかコストまでも高いというのだから、なんという不合理な発電方法だろうと、呆れてしまった。理性的な指導者であれば、日本は原発全廃に向かって舵を切るであろう。これまで原子力は安いとか安全だとかクリーンだとまで言ってこれを推進してきた人々の理性は、いったいどうなっていたのだろうか。
 かつて、高速増殖炉というものが可能になれば資源のないわが国にとっては、長期的にエネルギー供給のめどが立つのだから、当面はそのための投資であると思われた時期であれば、まだ原発を推進してきたことに大義があったのだということも言えるかもしれない。しかし、高速増殖炉技術は危険すぎるので世界で放擲され、かつ、ウラン埋蔵量はカロリーベースで石油の三分の一程度とわかっている今日、原発を推進することがわが国にとって益となると思われる理由はどこにも見当たらない。
 また、政界・経済界のトップには「日本では原発は造れなくなったから、これからは外国に売ろう」というとんでもないことをいう人々がいる。しかも、相手国には地震国トルコ、また先に大地震を経験したタイが含まれる。こんなことをしようとしている我々日本人には、自国で作った麻薬を他国へ輸出している某国を非難する資格があるだろうか。