苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

『韓国強制併合から100年』信州夏期宣教講座編

 本書は、毎年8月、信州の霊泉寺温泉で開催される信州夏期宣教講座の第13回目(2010年)の講演録である。日韓併呑100年にあたる2010年は、このテーマを扱った。私は先約が入っていたために、今回参加することが許されなかったけれど、結城牧師の原稿「朱基徹牧師との出会い」だけはファイルを送っていただいてすでに読ませていただいていた。
 岩崎孝志氏、野寺博文氏、笹川紀勝氏の講演録は、この出版によって初めて手にした。伊藤博文を殺害した安重根という人物について、これほど詳細に知ったのは初めてである。安氏の行動は日本では暗殺として片付けられるが、本人の自覚としては義勇軍軍人としての正当な軍事行動であり、韓国で彼は三大英雄の一人とされる。また敬虔なカトリックであり、そのすばらしい人格には襲撃された経験のある日本人も敬服していたという記述は興味深かった。もうひとつは、韓国併合条約(1910年)とそのもとになった第二次日韓協約が合法的であるか否かについて、丹念に検証している文章である。これは日本では他に類を見ない貴重な内容である。

 だが、ここでは筆者にとって個人的な感慨のある、結城晋次牧師の文章についてメモしておきたい。伝道者となって1年半後に結婚して半年後、御茶ノ水キリスト教会館で朱基徹牧師の殉教を描いた映画「恵みの高き嶺」を見た。ホールは満杯で、熱気に満ち、同時通訳で流されるせりふを聞きながら、食い入るようにして見た。日本の犯した罪の深さを映像で知るとともに、殉教とはこれほど困難な道なのかということと、朱牧師の殉教のたたかいは彼ひとりによるのでなく、牧師の妻の苛烈なまでの信仰による支えあってのことだったということを認識させられた。隣席では妻が涙を流しながら映画に見入っていた。
 その後、靖国委員会主催の訪韓の旅に大樹君もいっしょに加えていただいて、釜山、馬山、麗水、ソウルをめぐり、独立記念館も訪問した。朴永基牧師との親交もこのときに始まった。マッシュルームカットが妙に印象的な小寺牧師と知り合ったのもこの旅だった。また、さらにその後、正教師になると同時に靖国委員会に加えていただいて数年間を過ごし、その間に昭和天皇の死去と代替わりという出来事があった。
 今回結城牧師の文章を読んで、あの「恵みの高き嶺」という映画が日本で上映されるまでには、並々ならぬ先生のご苦労と不思議な主の導きがあったことを知った。結城先生は朱基徹牧師に「日本の教会に致命的に欠けていたもの、しかも日本の教会が真に求めるべきものを見出した」とおっしゃって、以来四半世紀、一貫してそう主張し続けておられる。そう、あの映画を見てからもう四半世紀が経ってしまったのだ。
 本書は第一刷は千部だけで、もう版元品切れだそうである。必要な方はamazonに注文されるようお奨めしたい。まだ在庫があるようである。第二刷が出されればよいのだが。