苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

パスカル「無限の空間の永遠の沈黙」

 「無限の空間の永遠の沈黙が私に怖れを抱かせる」(L201、B98)

 このことばの背景には、パスカルの時代の宇宙観の変化がある。中世にあっては、プトレマイオス的世界観が支配的であった。その世界観によれば、空間的な位置というものが価値の階段的な順位と一致していた。頂点には神がいまし、ついで天使たち、諸聖人たち・・・というふうに。コスモスとしての宇宙である。それは中世的な価値秩序の空間であった。プトレマイオス的宇宙は価値についてさかんに語っていたのである。
 ところが、17世紀、ガリレオケプラーが出現し、この宇宙は実は無限の空間であるということが明らかにされてきた。コスモスの崩壊である。等質な無限の空間においては、どこにも特定の点は存在しない。どこでも任意である。特定の点がないということは、どこに私が存在しようと特別の意味はないということである。かつて価値について饒舌に語っていた宇宙は、いまや沈黙してしまった。私の存在の意味も価値も語らなくなってしまった。そこでパスカルは己の存在の無意味さに恐怖を抱いたというのである。