苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

欲がはらむと罪を生み・・・

マルコ6:14−29

2016年10月2日 苫小牧主日朝礼拝

1.ヘロデ王の背景と概要
 聖書には「ヘロデ」という名の人物が何人か出てきます。ヘロデの王家というのは、イスラエル人ではなく、イスラエル人から言えば仲の悪い遠い親戚であるイドマヤ人でした。イドヤマ人の先祖はエサウです。紀元前1800年ころ、アブラハムの息子イサクからエサウヤコブが生まれましたが、彼らは母親のおなかの中にいるときから喧嘩ばかりしていました。その仲の悪さが子孫であるイドマヤ人とイスラエル人にまで受け継がれていました。ローマ帝国は植民地を支配するにあたって、植民地人が一致団結して帝国政府に反逆しないように、内部で対立を抱えるように意図して、イドマヤ人であるヘロデをイスラエルの王として立てたのです。ローマ帝国の傀儡政権です。
さて、イエス様が人として処女マリヤからお生まれになったときに殺そうとしたのは、ヘロデ大王でした。大王には5人の妻がおり、息子ヘロデ・ピリポはローマに住んでおり、その妻がヘロデヤといいました。ヘロデ・ピリポの異母兄弟が、今日登場するヘロデ王でその名をアンテパスといいます。ヘロデ・アンテパスは、バプテスマのヨハネ、またイエスの教えや運動に関心を寄せ、ある程度の共感をもち、恐れを感じていたようです。彼はヨハネやイエスが神から出ていることを感じ取っていましたが、悔い改めることはしませんでした。その様子が、6章14節から16節に記されています。 

6:14 イエスの名が知れ渡ったので、ヘロデ王の耳にも入った。人々は、「バプテスマのヨハネが死人の中からよみがえったのだ。だから、あんな力が、彼のうちに働いているのだ」と言っていた。
6:15 別の人々は、「彼はエリヤだ」と言い、さらに別の人々は、「昔の預言者の中のひとりのような預言者だ」と言っていた。
6:16 しかし、ヘロデはうわさを聞いて、「私が首をはねたあのヨハネが生き返ったのだ」と言っていた。

 ヘロデは、自分が神の預言者バプテスマのヨハネの首をはねたことについて、良心がチクチク刺される思いをしていたのです。そして、そのヨハネの霊が、今活躍しているナザレのイエスのうちに働いて、さまざまな奇跡を行わせているのだという解釈をしていました。死者の霊が生き返って、誰かのうちに働いて力を与えるなどということは、聖書の教えから見るとありえないことです。ヘロデ王のものの考え方には異教的なにおいがします。イドマヤ人という立場でしたから、それもやむをえないことかもしれません。まあ、ヘロデというのは、なにかと中途半端な人物です。

 
2.預言者による糾弾「姦通罪です」

 福音書記者はヘロデ・アンテパスが、預言者バプテスマのヨハネを殺すという大罪を犯すにいたったことの顛末について、述べていきます。発端は、ヘロデ・アンテパスが兄弟ピリポの妻と恋に落ちたことでした。兄ピリポとその妻ヘロデヤは都ローマに住んでいたのですが、あるとき、弟であるアンテパスがローマに所用があって出かけました。そのとき、ヘロデヤは夫のある身でありながら、義理の弟であるアンテパスに色目を向けて誘惑しました。都ローマの退廃した文化においては、この種の不倫はよくあることだったのでしょう。のぼせ上がったアンテパスは義理の姉ヘロデヤと不倫の関係に陥ったのでした。
そして、ヘロデヤはアンテパスとともに、都ローマから見ればはるか東のかなた辺境の地イスラエルへとやってきたのでした。ヘロデヤとしては「愛の逃避行」をしてきたというロマンチックな気分でいたのでしょう。 ところが、王后となったヘロデヤの耳に、ヨハネが自分たちのことを公然と非難しているという報せが飛び込んできました。ヨハネは当時、民衆の広い支持を受けている神の預言者デす。ヘロデヤは、都ローマの華美な生活を捨てて、恋のために、こんな辺境にまでやってきたのに、国中の人々の前で恥をかかされたということで、胸をかきむしって、預言者ヨハネを深く憎みました。そして、夫アンテパスに、毎日毎日言い寄りました。
「あなたは民の生殺与奪の権をもつ王ではありませんか。あの憎いヨハネをはやく逮捕して殺してください。預言者だかなんだかしらないけれど、あの狂信者は私に恥をかかせたのですよ。」と。

  6:17 実は、このヘロデが、自分の兄弟ピリポの妻ヘロデヤのことで、──ヘロデはこの女を妻としていた──人をやってヨハネを捕らえ、牢につないだのであった。
6:18 これは、ヨハネがヘロデに、「あなたが兄弟の妻を自分のものとしていることは不法です」と言い張ったからである。

えてして人は「恋に落ちた」などというとロマンチックなことばで、自分を欺きますが、ヨハネは正しい表現で言いました。「あなたが兄弟の妻を自分のものとしていることは、不法です。」「不法」つまり、神の律法にそむく罪です。「あなたがたがしたことは、殺人や窃盗と同じく、「不法」です」と言ったのです。すなわち、彼らは十戒の「汝、姦淫するなかれ」に叛いたのです。姦通罪です。レビ記20章10節にはこうあります。
「人がもし、他人の妻と姦通するなら、すなわちその隣人の妻と姦通するなら、姦通した男も女も必ず殺されなければならない。」
<王たる者、国民の道徳的な模範であるべきなのに、その王が公然と姦通罪を犯していたのでは、この国の民の道徳が地に落ち、神から裁きを受けることになってしまうではありませんか。>とヨハネは非難したのです。当時、王は軍隊も警察も司法権も握っていたのですから、その王が自ら罪を犯してしまったら、取り締まるものは誰もいないのです。ですから、最高権力者こそ常に謙遜でもっとも自重していなければならないのです。イスラエルの伝統では、そういう王が罪を犯したときには、神が預言者を送って王に悔い改めを迫る役割を果たしました。かつてダビデ王がベテシェバ事件を起こしたとき、神は預言者ナタンを送って悔い改めを迫り、ダビデ王は悔い改めました。しかし、ヘロデ・アンテパス王は預言者から警告を受けても、悔い改めませんでした。かえって不倫の后ヘロデヤの言いなりになって、神の預言者を逮捕して土牢に幽閉したのです。最悪です。

3.正しい道を知りながら、罪にしがみついていると

(1)罪にしがみつく
 しかし、ヘロデ・アンテパスはバプテスマのヨハネを不当に逮捕して幽閉しておきながら、彼を処刑しようとはしませんでした。ヘロデヤは早くヨハネを殺したいのに、それが果たせないでました。

6:19ところが、ヘロデヤはヨハネを恨み、彼を殺したいと思いながら、果たせないでいた。
 なぜでしょうか?
6:20 それはヘロデが、ヨハネを正しい聖なる人と知って、彼を恐れ、保護を加えていたからである。また、ヘロデはヨハネの教えを聞くとき、非常に当惑しながらも、喜んで耳を傾けていた。

 ヘロデ・アンテパスはヨハネが神の人であるとちゃんと知っていたのです。そして、時折牢獄に出かけては、ヨハネが語る教えに喜び耳を傾けていたとさえ書いてあります。だから恐ろしくて殺せなかった。しかし、ヘロデ・アンテパスは、無意味に悔い改めを先延ばしにしていました。彼は、ヘロデヤとの淫靡な生活に未練があって、これから離れることをしませんでした。このように罪を罪と知りながら、悔い改めることをせず、罪にしがみ続けると、サタンが、さらに大きな罪へと私たちを引きずり込んでしまうのです。警戒すべきです。罪だと示されたら、すぐに悔い改めないと、とりかえしがつかないことになります。罪は火のようなものです。小さな火だと侮っていると、あっという間にひろがって手のつけようがなくなります。


(2)悪魔の手に落ちる
 ヘロデヤは、ローマから連れ子の娘をつれてきました。聖書には記されていませんが、この娘はサロメと言いました。姦通の后ヘロデヤは、ヨハネを殺してしまう機会を虎視眈々とねらっていましたが、ついに夫ヘロデ・アンテパス王の誕生日に、そのチャンスが訪れました。ヘロデヤは思いました。「自分が正面に出ると、アンテパスは警戒するでしょうから、娘サロメを用いて王を油断させ、ヘロデ王の見栄っ張りなところを利用すればいい。」と。こんな血なまぐさい計画に、自分の娘を用いようというのです。ヘロデヤは、旧約時代でいえばアハブ王の妻イゼベルとならぶ悪妻でした。

6:21 ところが、良い機会が訪れた。ヘロデがその誕生日に、重臣や、千人隊長や、ガリラヤのおもだった人などを招いて、祝宴を設けたとき、
6:22 ヘロデヤの娘が入って来て、踊りを踊ったので、ヘロデも列席の人々も喜んだ。そこで王は、この少女に、「何でもほしい物を言いなさい。与えよう」と言った。
6:23 また、「おまえの望む物なら、私の国の半分でも、与えよう」と言って、誓った。
 ヘロデヤの考えたとおりでした。酒に酔ってもいたヘロデ・アンテパスは、サロメの背後にヘロデヤがいることを、軽率にも愚かにも忘れてしまっていたのです。王から「何でも望みの物をやろう」といわれて、サロメはすぐに母のもとに走ります。駆けていくサロメの背中をみながら、ヘロデ王は「しまった。」と酔いがさめたでしょう。しかし、時すでに遅しでした。
6:24 そこで少女は出て行って、「何を願いましょうか」とその母親に言った。すると母親は、「バプテスマのヨハネの首」と言った。
 ヘロデヤという女は、実に、悪魔的です。彼女が自分に恥をかかせたヨハネを恨んだというのはわからなくはありませんが、娘を自分の復讐の道具として利用し、娘に、「バプテスマのヨハネの首」と言わせ、自分のところに血まみれの首の載った盆を持ってこさせたのはまったくもって悪魔の所業です。また娘のサロメが母から言われたとおりに、ヨハネの首を持ってきたことも異常なことで、母と娘が健全な人格と人格の関係になっていない、いわゆる「一卵性母娘」という癒着した関係であったことをうかがわせます。
6:25 そこで少女はすぐに、大急ぎで王の前に行き、こう言って頼んだ。「今すぐに、バプテスマのヨハネの首を盆に載せていただきとうございます。」
6:26 王は非常に心を痛めたが、自分の誓いもあり、列席の人々の手前もあって、少女の願いを退けることを好まなかった。
6:27 そこで王は、すぐに護衛兵をやって、ヨハネの首を持って来るように命令した。護衛兵は行って、牢の中でヨハネの首をはね、
6:28 その首を盆に載せて持って来て、少女に渡した。少女は、それを母親に渡した。
6:29 ヨハネの弟子たちは、このことを聞いたので、やって来て、遺体を引き取り、墓に納めたのであった。



結び・適用

 ヤコブ書に「人はそれぞれ自分の欲にひかれ、おびき寄せられて誘惑されるのです。欲がはらむと罪を生み、罪が熟すると死を生みます。」(ヤコブ1:14,15)という言葉があります。 ヘロデは、まず兄嫁であったヘロデヤの流し目に惑わされました。そのとき刺激されたのは、性欲と好奇心でした。このとき目を叛けてヘロデヤに二人で会うことをしなければよかったのです。しかし、ヘロデはヘロデヤと二人きりで会うときを作り、姦通の罪を犯し、さらに兄からヘロデヤを奪ってイスラエルに帰りました。
 神は警告のためにバプテスマのヨハネを立てて、彼の罪を公然と非難しました。彼は「ヨハネの言うことはもっともだなあ」と思いながら、その罪から離れようとしませんでした。それどころか、ヘロデヤにせっつかれて己が権力を用いて神の預言者を逮捕してしまいます。牢獄でも、王はヨハネの話を聞いて感心していましたが、悔い改めようとはしませんでした。ヘロデ・アンテパスは、何度も神から悔い改めのチャンスを与えられながら、罪を罪として処理せず、罪にしがみつき続けました。そうすると、サタンが来て、もう後戻りできないところまでの恐ろしい罪を犯させてしまうのです。
「人はそれぞれ自分の欲にひかれ、おびき寄せられて誘惑されるのです。欲がはらむと罪を生み、罪が熟すると死を生みます。」
 とあるとおりです。彼は、今も永遠の滅びの炎の中に、後悔し続けて苦しんでいることです。
 ヘロデのことは他人事ですませられるでしょうか。私たちは自分で自分のたましいを清めることは出来ません。出来ませんから、己の罪を神様の前に告白し、主イエスの十字架の御血潮をもってきよいめてください。聖霊を満たしてください。と祈りましょう。