苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

国家権力についての申命記の教え

 本日、安保関連法制10法案が与党によって強行採決された。申命記に記された国家権力に関する教えをもう一度確認しておきたい。

17:16王となる人は自分のために馬を多く獲ようとしてはならない。また馬を多く獲るために民をエジプトに帰らせてはならない。主はあなたがたにむかって、『この後かさねてこの道に帰ってはならない』と仰せられたからである。
(中略)
 17:18彼が国の王位につくようになったら、レビびとである祭司の保管する書物から、この律法の写しを一つの書物に書きしるさせ、 17:19世に生きながらえる日の間、常にそれを自分のもとに置いて読み、こうしてその神、主を恐れることを学び、この律法のすべての言葉と、これらの定めとを守って行わなければならない。 17:20そうすれば彼の心が同胞を見くだして、高ぶることなく、また戒めを離れて、右にも左にも曲ることなく、その子孫と共にイスラエルにおいて、長くその位にとどまることができるであろう。
                         申命記17章

 これからいよいよ約束の地に入ろうとするイスラエルの民に対して、神はイスラエルの民にその地でどのように国をつくり生きてゆくかを教えられた。そのなかで、権力者である王の問題について教え、警告を与えられた。

1.権力者は軍備拡張の誘惑にあう
 ロバは平時の乗り物、馬は戦時の乗り物つまり武器である。したがって、「馬を多く獲る」とは軍備増強を意味している。権力者は、ともすると軍備増強と戦争に走る習性がある。「地上で最初の権力者ニムロデ」以来、権力者はつねに強い武器をもちたいと願い支配領域の拡張を図ってきた。なぜか?権力者はヘロデ大王がそうであったように、えてして傲慢かつ臆病な霊に取り付かれるからである。

 「馬を多く獲るために民をエジプトに帰らせてはならない。」とは「王はメソポタミア方面の大国の圧迫に対処するために、エジプトとの安保条約に頼り、そのために、民を再びエジプトの奴隷としてはならない。」という意味と解される。権力者はこうした行動に走り勝ちなのである。
 わが国ではどうだったろう?先の敗戦後、1947年9月、昭和天皇はロシアの脅威に対処するため、米国国務長官あてに沖縄を軍事基地として長期占領することを希望する旨の手紙を出している(「沖縄メッセージ」)。北では国体護持と引き換えに60万人の将兵ソ連に強制労働に売り、極寒の地シベリアでの強制労働によって6万人が死んだ。
 参照 http://d.hatena.ne.jp/koumichristchurch/20141009/p3
 参照 http://www.geocities.jp/warera_tikyujin/law_war/okinawa_message.html


2.権力者は神法の下にいることを忘れるな(申命記17章18-20節)
 権力者は、自分が律法の下に置かれていることを自覚して、つねに謙虚に国民に奉仕する心得をもたねばならない。神が権力者に剣の権能を託された目的は、剣をもって、社会にはびこる悪と不平等を抑制するためである(ローマ13章)。
 しかし、歴史を振り返ると、権力者たちはともすると、その剣を国民弾圧のために用いるという過ちを犯してきた。たとえば洗礼者ヨハネはヘロデの姦淫罪を責めたので逮捕・投獄されて処刑された。
 絶対王政の時代のヨーロッパ諸国でも、王たちはしばしば意に沿わない人民を逮捕して処刑した。こうした権力の横暴を抑制するために、近代憲法が生まれてきた。憲法の役割とは、権力者の横暴から人民の自然権を守ることである。これを立憲主義という。
 申命記律法は神を直接の起源としているので、近代民主主義憲法と同一視することはできない。しかし、自然権とは創造主が人間に与えた権利を意味しているので、その内実において思想的つながりがある。

 自然権の思想を典型的に表したものは、1776年のアメリカ独立宣言であり、「われわれは、自明の真理として、すべての人は平等に造られ、造物主によって、一定の奪いがたい天賦の権利を付与され、そのなかに生命、自由および幸福の追求の含まれることを信ずる」とあるのがそれである。権力がこの自然権を侵した場合には、自然法上の抵抗権が生ずる。日本国憲法が「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」(11条)と宣言しているのも自然権思想の表れである。(日本大百科全書自然権」)

3.適用
 本日2015年7月15日、衆議院特別委員会で自公政権が提出した安保関連法制が、強行採決された。この安保関連法案は違憲であると95パーセント以上の有力な憲法学者たちが指摘しているにもかかわらず、である。
 また2012年4月27日、自民党は「改憲草案」なるものを発表している。解説とともにネット上に公開されている。これは、「公益と秩序のために」すなわち国策のために、基本的人権としての表現の自由(集会・結社・出版の自由)・財産権・信教の自由を制限するものである。また、自民党の中からは「天賦人権論(自然権)」を否定する発言さえも飛び出している。
 このように自公政権は、非常に危険な暴走状態にある。
 キリスト者は、こうした状況にあって、この国の政治の正常化のために、祭司として祈り預言者として発言し、王として行動すべきである。

「自民改憲草案の諸問題点まとめ」もご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/koumichristchurch/20130107/p1