苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

イサベラ・バード『日本奥地旅行記』東洋文庫


 しばらく前に手に入れたイサベラ・バード『日本奥地紀行』を長い時間をかけて、ようやく読了した。平凡社東洋文庫に収められていて、鶯色の布張りの立派な装丁で、二段組で小さな字がたくさんはいって本文370ページもあるからお得である。古本で1円、送料250円だった。
 バードは1878年から1896年までに五回ほど日本を訪れていて、東京、京都、大阪、熊本、長崎など都会のほか、奥地を「探検」した。本書を読んでみれば、1878年6月から9月にかけての東北から北海道までを馬と徒歩と人力車で踏破した旅が「探検」であったと言う実感がする。その年は、たぐいまれな異常気象の夏であった。すさまじい風雨のなかを47歳の外国人女性が一人の日本人の少年の補助者をつれて成し遂げた奥州・蝦夷の旅は、ものすごいものだった。
 幕末・明治初頭、ジパングへのあこがれを胸に日本を訪ねた西洋人は何人もいて、その手記はそれぞれ興味深いのだが、だいたいは都市部のみがその訪問先なので、鎖国下にあって西洋文明なしに完成した、小さな黄色い人たちの夢の国というイメージである。だが、本書はほかの西洋人の誰も訪れていない東北・北海道の奥地に、蚤と蚊に悩まされながら、そして、びっくりするぐらい不従順な日本の馬に苦しめられながら、挑んで行った女性が書いたものとして、特別な作品である。彼女が博物学的な知識の持ち主であることも、本書の中身を濃いものにしている。

 日本人の生態として面白いと思ったのは、そのあつかましいばかりの好奇心である。彼女が宿に泊まると、障子にはたくさんの穴が開いて、穴の数だけ目玉があるというふうだったという。アイヌの人々はまるで違う文化と生き方を持っていた。
 そうそう、翻訳者が高梨健吉という懐かしい名前だった。高校時代にぼろぼろになるまで読んだ参考書『基礎からの英語』の著者である。