苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

日本国憲法の制定過程(その5)         3 「基本的人権尊重」「国民主権」は明治自由民権運動の復活である

3 「基本的人権尊重」「国民主権」は明治自由民権運動の復活である


 GHQ憲法は、濃厚に憲法研究会の「憲法草案要綱」の影響を受けている。そして、「憲法草案要綱」は明治期の自由民権運動の思想的指導者植木枝盛の思想の影響が濃厚である。


(1)政府松本委員会の旧態然たる改正案

 1945年10月4日、マッカーサーは、近衛文麿元首相と会談し、憲法の改正について示唆を与えた。そこで、近衛は佐々木惣一元京大教授とともに憲法改正の調査に乗り出す。さらに、10月11日、マッカーサーが幣原首相との会談において、「憲法自由主義化」を指示したので、幣原内閣は、憲法改正に対応することになり、松本烝治国務大臣を委員長とする憲法問題調査委員会(松本委員会)が10月25日に設置された。
12月8日の第89回帝国議会で、松本国務大臣は、私見と断りつついわゆる「松本四原則」を基本方針として挙げた。以下のとおり。

天皇統治権を総攬するという大日本帝国憲法の基本原則は変更しないこと。」
「議会の権限を拡大し、その反射として天皇大権に関わる事項をある程度制限する こと。」
国務大臣の責任を国政全般に及ぼし、国務大臣は議会に対して責任を負うこと。」
「人民の自由および権利の保護を拡大し、十分な救済の方法を講じ ること。」

この方針の下、宮沢俊義の手を借りて「憲法改正要綱」(松本試案、甲案)がまとめられ、また大幅改正の「憲法改正案」(乙案)もまとめられた。前者は閣議で議論され、上奏もされたが正式にとりあげられはしなかった。
1946年2月1日、松本委員会がGHQに提出する予定の「憲法改正要綱」(甲案)が毎日新聞にスクープされた。その内容は、帝国憲法と本質的に変わるところがない旧態依然たるものだった。

(松元委員会)憲法改正要綱
第一章 天皇
一 第三条ニ「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」トアルヲ「天皇ハ至尊ニシテ侵スヘカラス」ト改ムルコト
四 第九条中ニ「公共ノ安寧秩序ヲ保持シ及臣民ノ幸福ヲ増進スル為ニ必要ナル命令」トアルヲ「行政ノ目的ヲ達スル為ニ必要ナル命令」ト改ムルコト(要綱十参照)
五 第十一条中ニ「陸海軍」トアルヲ「軍」ト改メ且第十二条ノ規定ヲ改メ軍ノ編制及常備兵額ハ法律ヲ以テ之ヲ定ムルモノトスルコト(要綱二十参照)
第二章 臣民権利義務
八 第二十条中ニ「兵役ノ義務」トアルヲ「公益ノ為必要ナル役務ニ服スル義務」ト改ムルコト
九 第二十八条ノ規定ヲ改メ日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有スルモノトスルコト
第三章 帝国議会
十三 第三十三条以下ニ「貴族院」トアルヲ「参議院」ト改ムルコト
十四 第三十四条ノ規定ヲ改メ参議院参議院法ノ定ムル所ニ依ル選挙又ハ勅任セラレタル議員ヲ以テ組織スルモノトスルコト


(2)マッカーサー草案の背後にあった、憲法研究会「憲法草案要綱


①「マッカーサー三原則」(「マッカーサー・ノート」)
 スクープされた「憲法改正要綱」(甲案)をキャッチしたマッカーサーは、松本委員会には憲法を抜本的に改正する気持ちも能力もないと考えたのであろう、2月3日、「憲法改正三原則」をGHQ民政局に命じ、翌日から民政局はひそかに憲法改正案の条文化作業を始めた。いわゆる「マッカーサー三原則 」は下記の通りである。


Emperor is at the head of the state.
His succession is dynastic.
His duties and powers will be exercised in accordance with the Constitution and responsive to the basic will of the people as provided therein.

天皇は国家の元首の地位にある。皇位世襲される。天皇の職務および権能は、憲法に基づき行使され、憲法に表明された国民の基本的意思に応えるものとする。
II
War as a sovereign right of the nation is abolished. Japan renounces it as an instrumentality for settling its disputes and even for preserving its own security. It relies upon the higher ideals which are now stirring the world for its defense and its protection.
No Japanese Army, Navy, or Air Force will ever be authorized and no rights of belligerency will ever be conferred upon any Japanese force.

国権の発動たる戦争は、廃止する。日本は、紛争解決のための手段としての戦争、さらに自己の安全を保持するための手段としての戦争をも、放棄する。日本はその防衛と保護を、今や世界を動かしつつある崇高な理想に委ねる。日本が陸海空軍を持つ権能は、将来も与えられることはなく、交戦権が日本軍に与えられることもない。

III
The feudal system of Japan will cease.
No rights of peerage except those of the Imperial family will extend beyond the lives of those now existent.
No patent of nobility will from this time forth embody within itself any National or Civic power of government.
Pattern budget after British system.

日本の封建制度は廃止される。貴族の権利は、皇族を除き、現在生存する者一代以上には及ばない。華族の地位は、今後どのような国民的または市民的な政治権力を伴うものではない。予算の型は、イギリスの制度に倣うこと。
(訳文はWikipedia
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同日、松本委員会はマッカーサー憲法改正要綱を提出するも当然拒否される。民政局は2月10日に成案を得た。なぜ、これほど短時日マッカーサー草案が完成できたのか。それには二つ理由がある。