苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

孤立する日本

 昨年末NHKオンラインに、次の記事が載った。

「十二月二十七日付けの有力紙ニューヨーク・タイムズは、国際面のトップに『靖国神社への参拝によって日本のリーダーは平和主義から離脱する姿勢を鮮明にした』という見出しの論説記事を掲載しました。記事は安倍総理靖国参拝に先立ち、野党やメディアの反対にもかかわらず特定秘密保護法を成立させたほか、自衛隊の装備を拡充する防衛大綱をまとめるなどして、政治的なリスクを負いながら日本の戦後の平和主義からかじを切ろうとしている、としています。
また、外交的には今回の靖国神社参拝が日本と中国や韓国との関係を一層悪化させ、アメリカにとってももはや日本は、中国に対抗するうえで頼りになる存在ではなく、中国との緊張を高める『アジアの問題』になろうとしていると指摘し、アメリカの対アジア政策にも悪影響を及ぼしかねないと懸念を示しています。」


 先の戦争で主権を侵害され二千万人という人命を戦火のなかで奪われたアジア諸国のなか中国・韓国が、首相の靖国神社参拝を非難するのはわかりやすい。だが、今回はこれまで戦争の手伝いをしろと迫ってきた米国が「失望した」という異例の強い表現で、非難している。米国ばかりか、EU・ロシアもまた懸念や非難を表明して、日本は孤立している。だが政府は失態を隠そうとするので国民にはよく見えない。

そして、靖国神社の本質がなんであるかも教わらない日本人は、「米国大統領もアーリントン墓地に表敬するのに、なぜ首相の靖国参拝を非難するのか」という趣旨のメールを即日三百通も米国大使館に送りつけたそうである。筆者自身も勉強するまで靖国神社の本質が何か知らなかったのでえらそうなことは言えない。いくつかポイントを挙げておきたい。

第一に、アーリントン墓地と靖国神社は性格が異なる施設である。アーリントン墓地は国立で、どんな宗教形式でも選択できる。他方、靖国神社は単立宗教法人で、神道形式に限定される。憲法二十条は、「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。」「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」と定めている。

第二に、アーリントン墓地の埋葬の決定権は施設側にはなく、本人と遺族の意思次第である。靖国神社は神社側が遺族と本人の意思を無視して祀ってしまう。

第三に、アーリントン墓地は戦没者の慰霊施設である。他方、もともと靖国神社は国民の戦意高揚をはかるために戦没者を祀る陸海軍の施設だった。今も境内の遊就館は、戦争で他国の主権を侵害し、多くの人命を兵火によって奪い、多くの人々を武力で支配した側面には触れず、ことさらに大東亜戦争がアジアを欧米列強から解放したという側面のみを誇張している。だから首相が、「不戦の誓いをした」と発言しても、「戦意高揚の施設で不戦の誓い?」と思われてしまう。

第四に、首相は「日本は戦後、自由と民主主義を守ってきた。そのもとに、平和国家としての歩みをひたすら歩んできた。この基本姿勢は一貫し、一点の曇りもない。」とおっしゃるが信用されないのは、言葉と行動が矛盾しているからである。首相はずっと「戦後レジームから脱却」をスローガンとして、自由と民主主義と平和の土台である日本国憲法を非難してきた。先の参院選の翌日には武器輸出三原則緩和を発表し、ついで、大本営国家安全保障会議(NSC)を設置した。そして年末には、国中が反対の声で満ちている中で、「平成の治安維持法」、特定秘密保護法強行採決した。つぎには、憲法九条があっても集団的自衛権行使は可能だという解釈改憲を打ち出そうとしている。

言葉と行動がこれだけ隔たっていて、信用してもらうのは難しい。「TPP反対」と公約して票を集めて選挙が終わったとたんに「TPP推進」に転じたり、毎日三百トンの汚染水が噴き出しているのに「放射能は完全にブロックされている」と世界中が注目するなかで発言なさるのだから、ある意味で首尾一貫していると言えなくもないのだが。

第五に、米国も身勝手ではある。米国が軍事費節約のために、日本に戦争の下請けをさせようとして働きかけるから、政府はNSC、特定秘密保護法集団的自衛権行使といったことを推進してきたのだ。だが、それに乗じて首相が、特に戦争を主導した人々(いわゆるA級戦犯)をも祀った靖国神社を参拝することは、「大東亜戦争は欧米列強の植民地主義からアジアを解放した正義の戦争だ。戦勝国が敗戦国をさばいた東京裁判は不当だ。」という主張を意味するので、「戦後の国際秩序を否定して、もう一回戦争したいのか」と米国は失望し、中・韓・EU・ロシアといった世界の国々も、日本は軍国化したいのか、と懸念をいだいている。

 いずれにせよ、世界からの孤立は危険である。軽率な愛国心は国を滅ぼす。国民は頭を冷やして、よく考えたい。

「主は国々の間をさばき、
多くの国々の民に、判決を下す。
彼らはその剣を鋤に、
その槍をかまに打ち直し、
国は国に向かって剣を上げず、
二度と戦いのことを習わない。」イザヤ書二章四節

(通信小海244号)