苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

聖書と政治のこと

 ある年配のクリスチャンがお電話をくださった。「いのちのことば」12月号の巻頭言を読まれて、「先生は、共産党みたいに、アメリカは日本から出て行けと思っているようですが・・・。」と問われたので、私は「そんな意図はありません。ただ現代の日本が置かれている境位がどういうものかについて、聖書の光に照らすと、ちょうどローマ帝国時代の属州であったイスラエルに似た立場であるという事実を認識すれば政治状況がわかります。でも、どんな政治状況であったとしても、教会は神の国の福音を証して生きていくのだと書いたのです。」とお答えした。(なお私は、昔はともかく現在の共産党が「アメリカは日本から出ていけ」と主張しているかどうかは知りません。)
 リチャード・ボウカムが指摘するように、「帝国はなによりもローマ人と彼らを支える属州のエリートたちの繁栄のために存在していた(略)。ローマはたいてい地方のエリート支配者たちと共同で属州を統治した。したがって、ローマがユダヤ地方で大祭司とその議会の協力を求めたのは自然ななりゆきだった。」(『イエス入門』p39)
 すこし考えてみればわかることだが、諸国を包摂する帝国が支配域を治めるにはほとんどこの方法が唯一有効な方法であって、時代と場所を隔てても基本的に同じ方法がとられるのは必然である。もし宗主国が植民地に対する直接統治を図れば、植民地人の反発を招くし、ローマの役人と軍隊を派遣し維持するだけで膨大な費用がかかってしまう。だから、植民地エリートを傀儡政権として利用して統治するということになる。ローマ帝国は覇権下に置いた国に、親ローマ政権を立てて、その国をコントロールするのである。
 戦後の日本の場合、米国は共産主義に対抗するために、自民党政府と官僚機構を用いて影響力を行使してきた。米国が自民党に莫大な資金を注ぎ込んできたことが、米国公文書図書館による資料公開であきらかにされている。他方、かつて日本共産党議長だった野坂参三は、ソ連のスパイだったことが発覚して、1992年除名処分とされている。日本だけでなく、あの時代は、さまざまの国で米国とソ連の代理政争・代理戦争が行われていた。左翼も右翼もどちらも政治資金規正法に触れていただろう。


 結果からいえば、日本が米国に占領されたことは、ソ連に支配されるよりも幸運であったと思う。それはキリスト教会にとっても同じである。ソ連によって共産圏に組み込まれた諸国では、軒並み教会に対する弾圧は非常に激しく多くの犠牲者が出た。

 東西冷戦というあの時代のなかで、非武装中立という理想を論じた政治家・政党もあったが、それは実現しなかった。実際に、そういう路線をとっていたらどうなったのだろう。だが歴史にifを言ってはならない。
 

 聖書には、イスラエル民族を中心としてオリエント世界における帝国の興亡とそれに翻弄されるイスラエルの歴史が記されている。北イスラエル王国は、オリエント世界を初めて統一したアッシリヤ帝国に滅ぼされ、南ユダ王国はアッシリヤの後のバビロンに滅ぼされた。バビロンの地で、ダニエルはバビロン王国、ペルシャ帝国、ヘレニズム帝国そしてローマ帝国へと展開する歴史を預言しているように、相当政治的でもある。
 神の御子が人としてこの世に来られた時代、イスラエルローマ帝国の属州とされ、ローマ総督とヘロデ傀儡政権とイスラエル最高議会サンヒドリンの共同統治がなされていた。イスラエルの中にはローマ帝国の圧政をはねのけて祖国を独立へと導くリーダーを渇望する熱気が充満していた。
 そんな空気のなかで主イエスも五千人給食のとき、人々によって王として担ぎ出されそうになったことがあるが、主イエスはそれを拒否した。主イエス神の国は、この世の政治権力を手に入れることによって実現するものではなく、病む者を癒し、悪霊が追い出され、貧しい者に福音が宣べ伝えられるそのところに実現するものなのである。

 聖書という眼鏡をもって、世界を眺めるならば、現代日本の置かれた国際政治における状況もまた見えてくるし、政治家や官僚たちの振る舞いがなぜ、ああなのかということも見えてくる。私たちは、時代の様相とサタンの罠を見抜く蛇のような賢さを聖書から学ぶことができる。、
 だが、主イエスは黄金の冠を戴く政治的な王になろうとはなさらなかった。むしろ、主イエスは荊冠をかぶる王として、ゴルゴタの丘へと歩んで行かれたのである。キリスト教会の道の歩むべき道は、その道であると思う。そして、その困難な道こそ永遠のいのちへの道なのである。

 聖書が、この世の華々しい権力についていうことを一言でまとめてしまえば、預言者イザヤが繁栄するバビロンを見て言い、使徒ペテロが殷賑を極めるローマ帝国を見ながら引用したあのことばになるのだろう。バベルの塔の企ての破たん以来、歴史上多くの帝国が興きては亡びてきたように、ソ連も滅びた。同じように、今世界に覇を唱える米国もいずれは滅び、今、鼻息の荒い中国もまた同じように滅びてしまう日が来ることは必然である。これらは草なのだ。
 すべてが滅びても滅びることのない神のことばを証し続けることが、神の教会の任務である。

草は枯れ、花はしぼむ。
だが、私たちの神のことばは永遠に立つ。
            イザヤ書40章8節