苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

映画「終戦の天皇」

 家内と娘といっしょに、映画『終戦天皇』を見てきました。一見の価値ありでした。
 天皇周辺の史実については忠実さに徹し、天皇に対する処遇の判断基準となる調査を担当した情報将校のフェラーズ准将の日本人女性鹿島あやとの悲恋物語を織り込ませることで、単なるドキュメンタリーでなく、ストーリーに仕上げることに成功していると思いました。
 また、安っぽいアメリカ映画にありがちな、日本人の精神性が全然わかってないなあ、という感想はありません。よく描けていると思いました。その点、相当に力を入れたようです。「ラストサムライ」の延長線上にある作品です。
 准将フェラーズの恋というのは私には初耳で、史実かどうか少し調べてみました。この一橋大学の先生のサイトです。
http://homepage3.nifty.com/katote/Fellers.html
 フェラーズはラフカディオ・ハーン小泉八雲のマニアだったそうです。そのファンになるきっかけを作ったのが、学生時代の日本人女子留学生(渡辺ゆき)との出会いであったということだそうです。日本国憲法を調べたときに知ったのですが、アメリカの親日家はそろって、ハーンのファンです。私も講談社学術文庫にはいっている『日本の心』を読んで日本ファンになったくらい、ハーンの描く日本はミステリアスで魅力的です。
 ですが、フェラーズが日本女性と恋に落ちたということは、どうもあったかなかったか、よくわかりません。人の内面はよくわかりませんから。また、西田敏行が演じる映画のヒロイン鹿島あやの伯父が、サイパン、沖縄で戦った将軍であったというのはフィクション。人物のイメージとしては、沖縄戦で戦死した牛島満将軍という感じ。
 キャスティングについて。マッカーサー役は、本物のほうがダンディでインテリジェンスを感じさせますね。もう少しほかに俳優がいなかったかなあ、と感じました。西田敏行桃井かおりは相変わらず名演。近衛文麿を演じた中村雅俊は風貌が実物とちょっと似ています。フェラーズに、日本だけが武力で領土を奪ったわけでなく欧米列強のふるまいを真似たのだと迫るところは実物よりもかっこよすぎでしょう。

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 政府の大きな決断によって、何千万という庶民の人生、生活、いのちは左右されるわけですが、その大きな決断をするのも、やはりひとりの人間であるということを思いました。その人間がどういう価値観や思想を持っているかということが決断を左右するのだということを思わされました。
 フェラーズという人が日本人女性と小泉八雲を通じて日本文化に対する深い関心と愛情をもつようになっていたことが、米国の対日政策に大きな影響をおよぼしたわけです。そういうことを考えると、硬直しがちな国家と国家のありかたを正すには、人格と人格のふれあう民間交流がとても大事なことです。また、先にも書いたように当時、米国の親日家たちはそろってハーンの作品を通じて日本を愛するようになっていたそうですから、文学とか芸術といったものの果たす役割も大きいのですね。
 日本国憲法の草案をつくったGHQ民政局スタッフには、日本憎しという人々ではなく、親日的法律家たちがそろえられました。また彼らに助言したカナダ外交官ハーバート・ノーマンという日本の専門家は、戦前日本で活躍した宣教師ダニエル・ノーマンの息子で、やはり日本に対する深い関心と愛情をもっていた人物でした。こういう人々の登用をするあたりには、米国という国のふところの深さを感じます。