苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

NHK高校講座の原発賛否論


 NHK高校講座「現代社会」を聞いていたら、エネルギー問題、原発について次のようなことが教えられていた。前置きとして「原発を全部止めたら大停電になるから即時脱原発はできない」と語られたあと、一応両論併記として原発の長短について次のように述べられていた。

原発否定論
1 原発事故は地域住民に被害、環境汚染をもたらす。
2 省エネルギー技術で原発なしでやっていけるのではないか。  代替エネルギーも期待できる。
3 放射性物質の管理は危険で困難。
 
原発賛成論
1 電力需要は増加している。
2 原子力発電はCO2など温室効果ガスを出さない。安全に用いることができれば、クリーンエネルギーだ。風力発電太陽光発電はクリーンだが不安定。
3 資源の少ない日本では、少ない原料から発電することができるのが原子力である。持続可能なエネルギー政策が大事だ。

 否定論にも賛成論にも一理ある。結論は出しがたいから、考えていこう・・・という結論。

 高校講座ということであるから、これが文部科学省が認めた高校教科書の標準的内容なのだろう。チェルノブイリ原発事故後の被曝者たちの苦しみ、日本の原発労働者の被曝、福島原発破綻による地域の人々の生活破壊という問題が取り上げられないのが、内容として薄っぺらい。
 両論併記にして、「結論はすぐには出せない、考えていこう」とむすんでいるのであるが、そんなことはない。少しデータを調べて考えれば論理的に結論は明瞭である。以下、原発反対論に説明を加え、原発賛成論の理由として挙げられていることの間違いを指摘したい。

原発否定論にコメント

1 原発事故は地域住民に被害、環境汚染をもたらす。
  <コメント>311以降、私たちはそのことが身にしみている。しかも、その「放射能汚染地域」は数県にまたがり、福島第一原発4号機使用済み燃料プールが崩壊したばあい、列島の半分にも及ぼうとしている。

2 省エネルギー技術で原発なしでやっていけるのではないか。  代替エネルギーも期待できる。
  <コメント>
  日本の省エネ技術はすばらしく、試算では20〜25%節電可能。たとえば、国内の照明すべてを発光ダイオード(LED)に置き換えると、原発十三基分の電力が節約できるという。
   http://d.hatena.ne.jp/koumichristchurch/20110320/p2
  代替エネルギーについては、下に書く。

3 放射性物質の管理は危険で困難。
  <コメント>これはまったくそのとおりで、放射性廃棄物の最終処理方法も処理場も見つかっていない。100万年かかる。電気事業連合会によれば、2011年9月末現在、やり場のない使用済み核燃料は、1万4000トン。これが、原発建屋の中の使用済み核燃料プールに保管されている。現在、福島第一原発の四号機プールは崩壊の危機に瀕している。

2011年9月末の状態で、

原発名   貯蔵量  最大容量(トン )
泊     380  1000
女川    420   790
東通    100   230
福島第一 1960  2100
福島第二 1120  1360
柏崎刈羽 2300  2910
浜岡   1140  1740
志賀    150   690
美浜    390   680
高浜   1180  1730
大飯   1400  2020
島根    390   600
伊方    590   940
玄海    830  1070
川内    870  1290
敦賀    580   860
東海第二  370   440

合計  14000 20420
(四捨五入の関係で合計が項目の合計と一致しない)


原発賛成論のまちがい

 第一のまちがいは、前置きとされた「全原発を止めたら大停電になる」ということである。実際には現在稼動しているのは、ただの一基だけで、停電にはなっていない。また、全原発を止めても、夏場の電力ピークを乗り切ることができるだけの発電設備を日本は備えている。ただ電力会社は原発を動かしたいので、動かさないでいる。
 http://d.hatena.ne.jp/koumichristchurch/20120417/p1
 http://d.hatena.ne.jp/koumichristchurch/20110519/p2


 第二のまちがいは、「電力需要は増加している」ということである。ほんとうは人口減少に伴い、電力需要は長期低落傾向にある。電力会社はそれを認識しているからこそ、「オール電化」「電気自動車キャンペーン」によって電力需要の掘り起こしを進めてきたり、リニアモーターカーを中部新幹線に導入しようとしているのである。(日本経済新聞2011年2月25日「中部電が長期ビジョン、電力需要低下に危機感」参照)


 第三のまちがいは、「原子力発電はCO2など温室効果ガスを出さないから安全に用いることができればクリーンなエネルギーである」ということ。
 CO2によって地球が温暖化しているという認識が本当かどうかきわめて怪しい。参照→http://d.hatena.ne.jp/koumichristchurch/20120329/p1
 また、そもそもCO2は、植物の光合成に必須のものであり、それなしには地球の生命体系は維持できないのである。これを悪者扱いにすることは間違いである。
 また、発電の最中にはCO2を出さない原発は、ウラン採掘、ウラン運搬、巨大な原発建設において多くの石油を使うし、また、放射性廃棄物の管理には100万年要するわけで、その長年月における管理のためにも石油を用いてCO2をどの発電方法よりも排出することになる。また、「海温め装置」と呼ばれる原発発電効率がきわめて悪く、発生する熱の三分の二を海に捨てて環境を破壊している。
 CO2が地球温暖化を促していないとすれば、石炭・石油・天然ガスを用いる発電は、特に避けるべきものではないことになる。石炭ガス化複合発電、天然ガス複合発電(ガス・コンバインド・サイクル発電)であれば、高効率で有害な窒素酸化物を排出する量も非常に少ない。石炭の埋蔵量は膨大なものでウランの数十倍である。
 原発ほど環境を破壊する汚いエネルギーがないことは誰もが知っている。地震に脅かされている日本で、「安全に用いることができるならば、原発はクリーンなエネルギー」などというのは机上の空論にすぎない。また、放射性廃棄物処理問題で完全に行き詰っている。

注)ガス・コンバインド・サイクル発電は川崎発電所で使用されており、発電効率、経済性、小ぶりで狭い所に設置できる点、持続性(ウランより天然ガスが埋蔵量は圧倒的に多い)などに優れている。
   http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20110530/271915/?ST=rebuild
  



 第四のまちがいは、「少ない原料から発電することができるのが原子力である。」ということ。この主張は、原子力には将来性があるといいたいのであろうが、原発の燃料であるウランはカロリーベースでいえば、石油の三分の一しかなく、石炭の百分の一にすぎないのである。原発に将来性などありはしない。高速増殖炉の開発で国民の税金を1兆円あまり投じて燃料増殖をもくろんだが、結局、失敗してしまった。だから、原発は持続可能なエネルギーではありえない。
 石炭・石油・天然ガスが現在用いることができるものであり、上述したように、現在の最新式の火力発電は高効率で相当クリーンである。また、日本近海の海底にはメタンハイドレードが莫大な量、埋蔵されていて、これを用いる技術の開発が今後重要である。日本のメタンハイドレートの資源量は、1996年の時点でわかっているだけでも、天然ガス換算で7.35兆m3(日本で消費される天然ガスの約96年分)以上と推計されている(Wikipedia)。
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/kouen/dent-02.pdf

 地熱発電の可能性は地震国日本では高い。地熱利用のための法整備が必要である。また、黒潮の流れを用いる海流発電の技術開発はすでに実験段階に入っており、もしこれが成功すれば、安定的でクリーンで必要十分なエネルギー源を日本は手に入れることができるだろう。

参照「化石燃料とウラン」http://d.hatena.ne.jp/koumichristchurch/20110508/p1
「海流発電」http://d.hatena.ne.jp/koumichristchurch/20120104/p1


ラッパスイセン