苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

娘の旅立ち

(だいぶ以前の文章です。)


 小学二年生の娘が転校することになった。引越したので、校区が北牧小学校から小海小学校へと変わったためである。二年生とは言っても、保育園からずっとクラス変えもなく五年間いっしょに歩んできたお友だちと別れてしまうのはさびしかろう、不登校になったらどうしようと取り越し苦労までして、親としては心配した。
 娘とふたりで聖書を開いた。信仰の父アブラハム旅立ちの記事である。

主はアブラムに仰せられた。「あなたは、あなたの生まれ故郷、あなたの父の家を出て、わたしが示す地へ行きなさい。そうすれば、わたしはあなたを大いなる国民とし、あなたを祝福し、あなたの名を大いなるものとしよう。あなたの名は祝福となる。あなたを祝福する者をわたしは祝福し、あなたをのろう者をわたしはのろう。地上のすべての民族はあなたによって祝福される。」アブラムは主がお告げになったとおりに出かけた。アブラムがカランを出たときは、七十五歳であった。 (創世記十二章)


 「アブラムさんは神様のご命令があったとき、どこに行くのかわからなかったけれど、神様がアブラムさんの名を大いなるものとし、まわりの人たちもみんな幸せにしてくださるという神様の約束を信じて、勇気を出してふるさとを出かけたんだ。そうしたら、実際、神様はアブラムもまわりの人たちも幸せにしてくださった。・・・もし、Sちゃんがアブラムだったら、神様から旅立ちなさいというご命令を受けたらどうする?」すると、娘は「神様の言うとおりに出かけるよ。」と素直に答えた。
 そこで私は内心、残酷だなあと感じながら言った。「あのね、おとといお父さんは学校に行って、校長先生に会ってきたんだ。そうして、Sちゃんはこの春から小海小学校に行くことに決まったんだよ。」娘の口からは言葉が出てこない。かわりに両目から涙があふれてつーっとほほを伝った。抱っこして、神様がアブラムに語られたことばのアブラムという名のところにSという名を入れて何度も何度も読んでやった。「Sの名は祝福となる。」と。少し落ち着くと娘は「神様、私はこれから転校することになりました。私はひとりでどうしたらいいのかわかりません。助けてください。」と祈った。
 小さな娘にとって、転校は生まれて初めての旅立ちである。危機である。不安である。けれども、この危機は神様がくださった成長のチャンスでもあろう。
 翌日学校で娘は自分から担任の先生に転校について話した。さっそく送別会の準備が始まったという。帰宅して、娘は母親にこう言った。「なんでも自分のしたいようにだけ祈ってもだめなんだね。」娘は人生について、神のみむねに従うということについて、一つたいせつなことを学んだらしい。

(通信小海102号2002年2月より)