苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

福島第一原発事故の責任者は誰なのか?

 このところ、国会で自民党は、菅首相が官邸をあけて現地に飛んだことが震災対応の遅れになっているとしきりに非難している。野党の攻勢があまりに強いので、あたかも首相の初動が悪さが福島第一原発を爆発させたかのように錯覚しそうであるが、本当のところどうだったのか? 一ヶ月たって筆者も忘れてきていたので、ここで確認しておきたくなった。
 毎日新聞4月4日に掲載された「検証・大震災:原発事故2日間」という特集がネット配信されたので改めて読んでみた。3月11日,12日の緊張がよみがえってきた。
http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/verification/news/20110404org00m040017000c.html
これに基づいて

1.原子炉建屋を水素爆発にいたらせた責任者は、東電である。

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<11日
14:46 地震発生、福島第一第二原発自動停止
15:42 津波で非常用ディーゼル発電機使用不能になり全交流電源喪失       →バッテリーに切り替え。10条通報。
16:36「炉心溶融」を防ぐための冷却システムがダウン。
16:45 1,2号機で冷却装置注水不能に陥る。15条通報。
19:03 原子力緊急事態宣言発令。
21:09 東北電力電源車2台福島オフサイトセンター到着
       低圧コードがないために接続できず、手間取る。
21:23 首相半径3キロ避難指示
22:50 「炉心露出」
23:50 燃料被覆管破損
24:50 燃料溶融
<12日>
 1:30 海江田経産相を通じて東電にベントを指示。
      しかし、東電側は、ベント指示に従わない。
 6時すぎ 首相、ヘリで現場へ出発。
 6:50 政府、再度、東電にベントを命令。
      ・・・・
10:17 東電はようやく1号機ベント開始。
10:47 首相ヘリ官邸に戻る。
15:36 1号機水素爆発。
      18:00になっても東電から官邸へ報告なし。
20:20 海水の注水開始。
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 こうして見ると、首相の初動は遅れてはいない。初動が遅れ、官邸への報告を遅らせたのは東電である。東電は全交流電源喪失という事態をまるで想定していなかったから、自前の電源車の用意もしていなかった。さらに首相官邸からベント(排気)の指示があっても、それには従わず、再度の指示にいやいやしたがい、結局最初のベント指示から約9時間もたってからベントを始めたが、時すでに遅く水素爆発にいたってしまった。
 首相は「後に官邸を不在にしたと非難されることになります」という周囲の制止を聞かず、現地に飛んだ。それは東電の東京本店が現地の状況を把握しておらず、官邸の指示も聞かず、官邸にも数時間も報告しないという状況で、やむを得ざることだった。原発建屋が水素爆発にいたった第一義的な責任者は、東電であって菅首相ではない。周囲が心配したとおり、官邸を不在にしたことを野党自民党はやいのやいのと非難しているけれども。


2.冷却材喪失事故の責任者は、自民党安倍晋三首相とその政権下の原子力安全保安院と東電である

 では、冷却材喪失の原因となった全電源喪失の責任者は誰か。これは3月24日に書いたように、はっきりしている。安倍晋三政権下の安全保安院と東電である。2006年12月22日に共産党吉井英勝衆議院議員は、福島原発津波によって電源を喪失し冷却不能に陥ることを警告したが、安倍首相は、万全を期しており、特に「我が国において運転中の五十五の原子炉施設のうち、非常用ディーゼル発電機を二台有するものは三十三であるが、我が国の原子炉施設においては、外部電源に接続される回線、非常用ディーゼル発電機及び蓄電池がそれぞれ複数設けられている。また、我が国の原子炉施設は、(非常用電源喪失という)フォルスマルク発電所一号炉とは異なる設計となっていることなどから、同発電所一号炉の事案と同様の事態が発生するとは考えられない。」と非常用電源喪失は考えられないと答弁している(一の5を見よ)。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b165256.htm
 この翌年2007年7月16日、柏崎刈羽原発の新潟中越沖地震事故が起った。そこで、福島県共産党議団は2007年7月24日に東電に福島原発10基の耐震安全性基準の総点検を求めたが、東京電力はこれを拒否し、政府もこれを黙認したようである。この要求文書には、今回起ったことが正確に想定されている。
 「福島原発はチリ級津波が発生した際には機器冷却海水の取水が出来なくなることが、すでに明らかになっている。これは原子炉が停止されても炉心に蓄積された核分裂生成物質による崩壊熱を除去する必要があり、この機器冷却系が働かなければ、最悪の場合、冷却材喪失による苛酷事故に至る危険がある。そのため私たちは、その対策を講じるように求めてきたが、東電はこれを拒否してきた。柏崎刈羽原発での深刻な事態から真摯に教訓を引き出し、津波による引き潮時の冷却水取水問題に抜本的対策をとるよう強く求める。」(2007年7月24日http://www.jcp-fukushima-pref.jp/seisaku/2007/20070724_02.html
 今から4年前のことである。もし安倍晋三政権下の保安院と東電が県議団の提言を誠実に受け止めて総点検をし、対策を講じていれば、今回の津波による冷却系破綻という事故は防止できた可能性は相当高い。(だからといって筆者は浜岡原発をはじめとするあちこちの原発が、津波対策だけ万全しておけば皆安全で継続してよいなどとはまったく思っていない。)

 というわけで、今回の福島第一原発の事故・爆発の責任者は東電と自由民主党安倍政権下の原子力安全保安院にあると言わねばなるまい。たしかに政権をもつのは今の民主党なのだが、民主党に導火線に火のついた爆弾を渡したのは自民党である。筆者は菅首相民主党を特に支持しているわけではないし、共産党の支持者でもない。菅首相にはもっと東日本震災にスピーディなそれこそ首相自らイニシアティヴをとる対応ができないものかと感じているし、東海地震の危機が迫っている浜岡原発をなぜすぐに停止しないのか、と気をもんでいる。しかし、それはそれとして、東電とべったり癒着してきた自民党があたかも自分たちにはなんの責任もないかのように、菅首相を野次では「ひとごろし」呼ばわりまでして、相当の責任ある安倍晋三元首相・元自民党総裁がほうかむりしていることには、あきれ果てている。マスコミがそれをまったく追及しないのは、どうしたことか。
 安倍元首相は、「私が当時、指摘された福島原発の欠陥を甘く見て、保安院に点検させることを怠ったために、今回の事態を招きました。」と福島県民と国民にたいして陳謝すべきではなかろうか。自民党は、民主党の首相ばかり責めている場合ではない。電力会社と癒着してきた自分たち自身の過去の過ちを省みることができないような人々に、国民がどうして安心して政権を再びゆだねることができよう。そこで事実関係をはっきりさせておきたいと思った。<追記 5月1日>
 東電によるベントが遅れて水素爆発で屋根が吹き飛んでしまったことは確かに失敗だが、屋根が吹き飛んだからこそ全電源喪失して冷却不能という事態にあって、上から水を注ぐことができるという結果を生んだ。もし、屋根が吹き飛んでいなければ、いったいどうやって冷却できただろう。
 冷却不能のまま事態が推移したばあい、圧力容器が加熱してメルトダウンから水蒸気爆発という破局の可能性が相当あった。しかし、建屋が吹っ飛んだおかげでその可能性は減った。このとき、絶対壊れないと学者たちが豪語した圧力容器も穴があいてしまった。もちろんそれによって放射能漏れが生じたことは、原子力の「閉じ込める」という基本的技術の破綻を意味していた。これまた水蒸気爆発による破局の可能性を低くする結果を生んだ。皮肉なものである。



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