苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

TPP推進派こそ平和ボケではないのか<1月末追記あり>

 「平和ボケ」ということばは、しばしば憲法9条を大事にしようという主張をする者たちに向けられてきた。「愚か者、臆病者たちが、いつ戦争になるかわからない時代に何を言っているのだ」というふうに。ところが、彼らは今しきりにTPP加盟を推進している。そして、世界に打って出ることを拒む日本農業を、内に閉じこもっていれば安穏と暮らしてゆけると思い込んでいる「平和ボケ」だと非難する。彼らは、自分たちは外に打って出る勇気を持っているから「平和ボケ」でなく勇ましい人間だと言いたいらしい。
 だが、筆者から見ると、TPP加盟推進派の論者こそ「平和ボケ」の最たる人々である。TPPによって、農水省試算でいうように国内食料自給率を14パーセントまで落としても大丈夫だといえるのは、「平和ボケ」でなくてなんであろう。戦争に至らないまでも国と国が対立関係に陥れば、相手国にとってもっとも必要な物資の禁輸措置を取るというようなことは、今日の世界でもたびたび行なわれている。昨年だって中国は、レアアースの禁輸出措置を取った。
 あるいは気候変動によって、地球規模の不作が、これまでも幾度となく起ったように今後も何度も起るだろう。たとえば自給率124パーセントの米国が、ある年、天候不順で90パーセントしか収穫できないということになったら、輸出をストップするのは当たり前のことである。TPP推進派の経済学者は一国からの輸入に頼ると危険だから、多くの国々から分散して買い付けておけば大丈夫だというが、近年の気象の異常さは地域限定でなく、地球規模である。農産物は石油やレアアースとはちがうのだ。
 自動車や電気製品を輸出するような企業を背景とする論者は、工業がそうしてきたように、「守りの農業」から「攻めの農業」に転じれば大丈夫だと述べる。その成功例として挙げるのが、中国富裕層向けの特選コシヒカリである。中国国内で、中国産米は10キロ500円で、日本産魚沼コシヒカリは10キロ6000円超だが、それでも中国の富裕層は、中国米を食べず特選コシヒカリを食べていると宣伝する。だが、これは事実誤認か虚偽である。食べるのは事実だが、日常的に食べているわけではなく、贈答用にすぎないから年間80トンしか中国には入っていない。
 TPPが実現しても、なるほど日本で超高級米を作ることができる特殊な環境(水、日照条件、土など)と技術のあるごく少数の農家は、生き残れるだろう。けれども、普通のコシヒカリを作るほかない大多数の米農家は無理だろう。なぜなら、日本の商社はすでに日本の米作の技術を中国に移転して、日本産並みのコシヒカリを作っているからである。それが日本のスーパーで日本産コシヒカリの3分の1の値段で売られるようになったら、日本の消費者はどうするか。中国産の安全性に疑問を持つ家庭の主婦たちはしばらく買い控えるかもしれないが、外食産業が即座に飛びつくことはまちがいない。日本の魚沼コシヒカリが10キロ6000円、普通にうまい国産コシヒカリが10キロ3000円、アキタコマチが2500円、まずい国産古米が10キロ1500円と、中国産の普通にうまいコシヒカリ新米が10キロ1000円で並んだら、どうなるか。結果は見えている。
 この程度のことが、筆者などよりも、はるかに優秀で情報ももっているTPP推進派の人々に、わからないはずはない。だから、どうも筆者には彼らの本音は、別のところにあるように思われてならない。彼らは護憲派を「平和ボケ」と揶揄する時には、「世界は平和ではない。だから、武器を作って国を守り、また武器を作って輸出してもうけよう」と言い、TPPを推進したいときには、同じくちびるで「世界は平和だ。国内農業がつぶれても大丈夫。食べ物は、我々が作った工業製品を世界に売ってもうけたカネで買えばよい。輸入できなくなるようなことはない。」と言う。実は、世界が平和であるかどうかといったことは、彼らにとっては単なる口実であって、彼らの本音は要するにカネもうけなのである。拝金主義が賢い人たちの目を曇らせているのではあるまいか。・・・というふうに筆者の目には映るのだが、果たして・・・。

これも読みましょう⇒
http://itokonnyaku.tumblr.com/post/2682016721/tpp-gdp

追記 2011年1月末>
 TPPについては中国、韓国も関心を示しているという報道もあったが、結局、両国とも参加するメリットはなくディメリットのみのTPPには加わらないという選択をしたそうである。ゆえに、上記のコメの話は、中国産米を想定しているので、的外れということになる。
 だが、コメを中国産コシヒカリから、米国産カリフォルニア米に読み替えれば、数字もある程度変えなければならないが、ほぼ同じような話になるので、そのまま掲載しておく。
 こうなると、いよいよTPP参加国の顔ぶれを見れば、米国が日本に農産物を輸出するための戦略であることが明白である。オバマ大統領は5年間で農産物輸出を現在の2倍にするという計画を打ち出している。