苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

宮村武夫著作5『神から人へ・人から神へ―「聖書・神学」考』

 宮村武夫先生の著作集の第五巻が刷り上り、手元に届いた。今回は聖書と神学にかんする13本の論文が収録されている。たのしみである。とりあえず松谷好明氏の巻頭の文章「歩きながら神学する洞察の人」を読んで、なるほどなるほどとうなずいた。巻頭の松谷氏も巻末文の永田竹司氏も学者なのだが、宮村先生著作集の文章となると、その文が単なる学者的文章でなく、ご自身の生とつながった味わいあるものになっているところが興味深い。
 「そば屋のてんぷら云々」というあとがきは、宮村先生ご自身による本書の解説であって、たいへんおもしろい。先生の論文はてんぷら専門店の高級なてんぷらではなく、そば屋のてんぷらだとおっしゃる。学問的高水準の新説を提供するというのではなく、説教が整えられることを目指した論文だという意味である。
 この文章の中に、「聖書は語る」というシリーズで、先生の若き日の短文がいくつか採録されている。これが珠玉の短文集なのだ。筆者の好みを率直に言ってしまえば、宮村先生の文体は、高校生時代、JCC時代の文章にはたくまざる文学的香気があって、後年のレジュメ風の抽象的術語がふえた論文体よりも好ましい。
 以下に、目次を紹介しておこう。
歩きながら神学する愛と洞察の人、宮村武夫・・・・・・・・・・松谷好明
1.パウロギリシャ語pas(すべて)の用法
2.マルコの福音書3章31-35節をめぐって
3.ヨハネ福音書15章26,27節の一考察
     「あかし」、「記憶」および主の晩餐との結びを中心として
4.1ペテロ2章21節に見るキリストとキリスト者の結び
5.ヘブル人への手紙11章8-11節におけるアブラハムと都について
6.エレミヤに学ぶ(その1)―聖霊、聖書、生涯
7.エレミヤに学ぶ(その2)―アナトテに生きる
8.聖書解釈における聖書構造について
9.聖書の契約構造・・・聖書解釈の基盤と豊かさを求めて
10.ガラテヤ人への手紙に見る契約構造
11.ガラテヤ人への手紙に見る聖霊
12.聖書解釈の基盤と方法(論)をめぐって
13.ステパノの説教に見るアブラハム
宮村武夫・万年青年先生との対話の書・・・・・・・・・・・・・・・永田竹司
「そば屋のてんぷら、アルファとオメガ」−あとがきにかえて・・・宮村武夫
 永田先生は聖書学者でICUの教授である。宮村先生が留学から戻られてTCCで最初の教え子にあたる。氏は福音主義的聖書観に立つ人ではなく、近代聖書批評学を前提とする聖書観に立っているから、宮村先生の「聖書全体に一貫する主題」というものの言い方に違和感を覚え、それを率直に表明なさっている。その立場のちがいと当惑を正直に語りながら、宮村論文の意義について述べておられる。なかなかできることではない。恩師に対する敬愛と、学者としての誠実さとが、品位のあるエッセイとして結晶している。