苫小牧福音教会 水草牧師のメモ

聖書というメガネで、神が造られた世界と人間とその歴史を見てみたら、という意識で書いたメモです。

メモ12 裁判員制度の長所・短所・・・・官僚裁判官の欠陥

 井上薫、門田隆将『激突 裁判員制度』で、裁判員制度について井上氏が挙げる問題点を三つメモしておく。
 第一は、裁判は法律に基づいてなされるべきであるのに、当の裁判員になる人たちは法律の素人である。
 第二は、裁判にあてる期間が3日から5日間ときわめて短い。その理由は、それ以上裁判員を時間的に拘束できないからである。けれども、これでは事実認定が正確にできるとは思えない。被告に不利である。
 第三は、裁判員は、評議の秘密とその他職務上知りえた秘密をもらしてはいけないという守秘義務を、一生涯負う。評議の秘密とは、評議の経過のほか、裁判官と裁判員の意見と、評議におけるその多数決の数のことを意味している。仮に守秘義務に違反したばあい、六ヶ月以下の懲役または五十万円以下の罰金に処せられる。

 これに対して、門田氏はこれらの問題性を認めながらも、多数の欠陥裁判官と判決を取材してきた経験から、むしろ裁判員制度には有効な点が多いとしている。
 第一に、かつて、官僚裁判官たちは、憲法に反し単なる慣例を理由に、長年、公判中の傍聴者たちによるメモを禁じてきた。官僚裁判官たちが必ずしも法律に則って行動してきたとはかぎらない。
 第二に、裁判員制度では公判期間を短縮するために、「公判前整理手続」という新しいシステムを導入することになった。これによって、裁判官・検察官・弁護人そして希望すれば被告人も出席して、初公判の前に証拠や争点を絞り込んで審理計画を立てることになった。ここで検察官はすべての証拠を開示しなければならない。これは、従来検察が自分の立証に都合のいい証拠だけを提出していたことに対して、画期的なことである。公判前整理手続によって、警察の捜査手法、取調べ時間まで開示される。これは正確な事実認定に役に立ち、被告にとって有利である。
 第三に、官僚裁判官たちは学生・司法修習生時代から選民的な狭い特殊な環境で生活をしてきたために、一般的生活経験や社会常識が著しく欠落しており、それゆえ事実認定が正確にできないケースが多い。むしろ一般人から採用される裁判員のほうが正しく事実認定をすることができるので、彼らと協力して判決を出すことは有益である。
 第四に、多くの官僚裁判官の最大関心事は保身と出世であり、抱えている裁判件数が膨大なので個々の事件に見合った判断をしないで、ただ機械的表面的に前例の相場に従う習性がある。これに対して一般人から選ばれる裁判員たちは、そうしたしがらみがなく、ほとんど一生に一回の貴重な経験なので、個々の事例に誠実に向かって判断しうるであろう。
 第五に、官僚裁判官は国や自治体から給料をもらっている公務員であり、裁判所が裁判官にリクルートするのも、社会意識の高い人ではなく、上に対して従順な官僚タイプの人々なので、公務員仲間である国や自治体や警察に不利な判決を出すことができない傾向がある。これに対して裁判員は、そういうしがらみから自由である。

 この議論の結末で、門田氏は、このたび始まった裁判員制度には多くの問題があるとしても、過去の官僚裁判官制度を根本的に反省し改正していくためには「過渡的なもの」として意義があるという。そして、両氏ともにだいたい一致して、次の提案である。<三年後の見直しの時点で、裁判員制度の問題点のひとつである「法律を知らない素人」が裁判員になるということに改定を加えればよいのではないか。すなわち、たとえ司法試験を合格していなくても、法律について素養のある法学部出身者、ロースクール出身者にかぎって裁判員とするというふうにしていけばよいのではないか。>